フィンランド映画『マン&ベイビー』大変なのは男だからじゃない

渋谷のユーロスペースにて現在開催中の北欧映画祭『トーキョーノーザンライツフェスティバル2019』でフィンランド映画『マン&ベイビー』を鑑賞しました。

『マン&ベイビー』 は2017年のコメディ映画で、クスクスと笑う場面が多く、基本善人しか出てこず、観終ってから考えさせられる良作。

無事に出産を終えた妻のピアが「母親にはなりたくない」と、病院からタクシーで失踪。アンティは、生まれたばかりの息子と2人残され途方に暮れるが、それは怒涛の日々の始まりだった…!子育て先進国フィンランドから届いた育児奮闘コメディー。男とは?仕事とは?そして子育てとは!?すべてのシングルファーザーへ捧げる応援歌。

トーキョーノーザンライツフェスティバル2019 公式サイトより

予期していなかった一人での子育てに突然放り込まれたアンティは何から手を付けていいのか全く分かりません。なにしろ妊娠中からノイローゼ気味だった妻に地域の子育て支援制度、いわゆる“ ネウボラ”の両親教室に行くことも拒絶されていたのですから。

数時間おきの授乳、おむつ替え、体をきれいに保ったり、寝かしたと思ったら起きてしまったり…。充分に寝ることも休むことのできない怒涛の日々が始まります。家は散らかり、自分の食事もままならない。もちろん仕事になんか行けないので、会社には1年の育児休暇を申し出ます。

やや仕事に未練がましいアンティに、あっさりと1年の育児休暇が出され、それどころか上司や同僚全員で拍手で送り出すのは、フィンランドだなあという場面。フィンランドは育児休暇中でも給料の70%程度支給されるそう。

初めての育児にストレスMAXなのに、ネウボラの担当者には、子供を福祉施設に取り上げられることを恐れたのか「問題ありません」と何もない振りをしてしまう。けれどもベテラン職員にはお見通し(この職員さんがジュディ・デンチ似なため私の中で、この人なら何とかしてくれると、謎の信頼感が生まれてしまった)。

ところで映画を観ながら、
<途中でアンティが育児を放棄→赤ちゃんが危険にさらされる→アンティが反省→「パパが悪かった」と愛情を強く意識する>
なんて展開もあるんじゃないかしら、と予想したのですが、そんなベタな想像は裏切られ、最後までアンティは疲労と闘いながら、責任と愛情を持ってまっとうに赤ちゃんを育てていく点が逆にリアル。

努力してママ友を作ってみたり、 ネウボラや、隣人家族に助けてもらったりしながら、経験を積み徐々に子育てのペースをつかんでいくアンティ。自分の時間が欲しいと嘆き、目の前の事に対処するのに必死だったアンティが、赤ちゃんのいる日常をこなし、未来について自然に考えるようになる、そんな彼の成長物語。

この映画は父親が子育てに奮闘する姿を描くことでドタバタコメディに仕立て、見ている方もアンティに同情しながらも笑っていられますが、もしもこれが母親なら?

遊びに行きたい、会社に戻りたい、自分の時間がない、と嘆く母親を描くと、「母親失格」「母性喪失」なんて反発を覚える人もいるのかも知れません。

けれども、翻って考えると、アンティが子供が生まれた途端に立派に父親になった訳ではないように、女性だって子供を産んだ途端に立派に母親になるものではないですよね。実際アンティの妻のピアは「子育てなんて無理ー!」と出て行ってしまっています(興味深かったのは、ピアの事を「母親失格」と責める人が誰もいない事)。大変なのは男だからでなく、経験の無いことだから。

いみじくもアンティは公園のママ友から男が子育てをすると褒められるのに、というような事を言われます。ママ友にはシングルマザーもいて、彼女もアンティと同じように孤軍奮闘し、十分に睡眠もとれない日々を過ごしているハズ。でも母親なら当たり前と見過ごされてはいないかな、そんなことに気が付くのです。

子育ての経験のある人は「あるある」と共感する部分が多いのではないでしょうか。また誰でも自分の親はこんな大変な思いをして育ててくれたのかと思いを馳せるようになるかも。

2月9日の初上映以降は、2月11日(月)21:30、2月15日11:30にも上映があります。また15日の上映後にはフィンランド大使館のマルクス・コッコ参事官によるフィンランドの子育て事情についてのトークショーが予定されています。

詳細は下記リンク先からご覧ください。
トーキョー ノーザンライツ フェスティバル

『マン&ベイビー(Yösyöttö / Man and a Baby)』
監督:マルヤ・ピューッコ Marja Pyykkö
2017年 / フィンランド / フィンランド語(Finnish) / 86min
字幕:日本語・英語【With English subtitles】

ミタ

この映画は周囲の登場人物も実に魅力的です。

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