
「そんな偶然、あり得ないでしょう?」
もし小説家がこんな物語を書いたら、多くの人がそう思うのではないでしょうか。
『妹が暮らす人口1000人ほどの小さな町で、思いがけず長期滞在することになり、住居を探すことにした。気に入った部屋の売主に会ってみると、その女性は40年前に亡くなった姉に瓜二つで誕生日も同じ。調べていくうちに、亡き姉には生き別れた双子の姉妹がいたことが分かる──。』
ところが、これはフィクションではありません。

9月4日(金)公開のドキュメンタリー映画『グルスポングの奇跡』は、まさに「事実は小説より奇なり」を地で行く実話。ノルウェー人姉妹がスウェーデンの小さな町グルスポングで体験した、信じがたい出来事を追った作品です。
1940年代、ナチス・ドイツ占領下のノルウェーでは、双子は人体実験の対象になる危険がありました。その運命から逃れるため、一人の赤ちゃんは「死亡した」と届け出られ、別の家族のもとへ託されて育ちます。80年近い歳月を経て、偶然とも奇跡とも言える再会を果たした家族。しかし物語は、そこで終わりません。

この映画の面白さは、「奇跡の再会」の先にあります。
互いを知ろうとするほど、新たな事実が現れ、さらに謎が深まっていく。ドキュメンタリーでありながら、サスペンスやミステリーを観ているような緊張感があり、「次は何が起こるのだろう」と最後まで引き込まれました。

この作品には、日本人には少しなじみの薄い歴史や宗教観が登場します。第二次世界大戦中のナチス・ドイツ占領下のノルウェー、そしてキリスト教では自殺が重い罪と考えられていること。この二つを頭の片隅に置いて観ると、登場人物たちの言動がより腑に落ちるかもしれません。
もちろん、この知識がなくても十分楽しめますが、日本とは異なる歴史や宗教観、家族観に触れられるのも、この映画の魅力の一つです。
そして、この映画には「これが正解」という答えは用意されていません。登場人物たちがそれぞれ異なる「真実」を抱えているように、観る人によって受け止め方もきっと変わるでしょう。観終わったあとには、「何が真実だったのだろう」「自分ならどう考えるだろう」と、誰かと語り合いたくなる作品です。
監督のマリア・フレデリクソンは、「観客一人ひとりが、自分自身の真実を見つけ、何を信じるかを決めてほしい」と語っています。

マリア・フレデリクソン監督は、これまで年配女性を主人公にしたドキュメンタリーを数多く制作しています。「年配女性を”おばあちゃん”という存在ではなく、夢や葛藤を持つ一人の人間として描きたい」という思いを大切にしてきたそうです。そんな監督だからこそ、カーリ、マイ、オーウラグという3人の女性を、善悪で描くのではなく、それぞれの信念や迷いを丁寧に映し出しています。
監督自身は、「この作品には衝撃的な出来事がいくつも登場しますが、核にあるのは家族の物語です」と語っています。奇跡のような実話に驚くだけでなく、「家族とは何か」「真実とは何か」を考えさせられる作品でした。
『グルスポングの奇跡』は2024年にスウェーデンのアカデミー賞にあたるグルドバッゲ賞で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞しています。北欧が好きな方はもちろん、実話のミステリーやドキュメンタリーが好きな方にもおすすめしたい一本です。
9月4日(金)より全国順次公開です。
詳細・劇場情報については下記の公式サイトからご確認ください。
映画『グルスポングの奇跡』
監督:マリア・フレデリクソン
出演:カーリ・クロー、マイ=エーリン・ストーシュレットゥン、オーウラグ・バッケヴォル・オストビー 他
原題:Miraklet i Gullspång|スウェーデン・ノルウェー・デンマーク|2023年|114分|カラー|ノルウェー語・スウェーデン語|フラット|5.1ch|G
日本語字幕:常磐彩|字幕監修:青木順子|後援:スウェーデン大使館、ノルウェー大使館、デンマーク王国大使館|配給・宣伝:カルチュアルライフ
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