リンドベリの不思議世界

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スウェーデンのグスタフスベリ社を代表するデザイナー、スティグ・リンドベリ。
近年復刻された食器、Berså、Röd AsterやBlå AsterのAsterシリーズ、Turturのデザイナーとして知られています。
トップの写真の花瓶はそのリンドベリがデザインし、1960年から72年の間に制作された「Karneval(カルネヴァル)」シリーズの一つです。シリーズは全部で32種類作られ、どれもリンドベリが創造した奇妙な生き物たちが手描きで描かれています。
この作品の魅力は、もちろんリンドベリの絵にあるのですが、それを生き生きと描いた絵付師たちの腕にもあります。リンドベリの元で働いた絵付師たちの中には後に自分のスタジオをグスタフスベリに持ち、代表作に「コボルト」シリーズもある学生時代のカーリン・ビヨルクヴィストも含まれていました。
カーリンについては以前ご紹介しました→「受け継がれる美」
リンドベリのスタジオは若きアーティストの卵たちの修行の場でもあったのか、この作品群は使う色の種類に決まりはあったものの、その組み合わせはある程度彼らに任されていたようです。というのも、同じ作品でも色の取り合わせが異なったものが何種類も存在しています。更に、絵が左右反転している場合もあり、当時のおおらかなスタジオの雰囲気が感じられます。
Karnevalとはカーニバルのことで、日本語で「謝肉祭」。キリスト教に親しみのない日本の人にはあまり知られていませんが、カーニバルは宗教にまつわるお祭りです。キリストが復活したとされる日の前46日間、祈り、断食し、悔い改める宗教的習慣(レント)があるのですが、その「つらいレントの前に食べて飲んで大騒ぎしよう」という煩悩満開のイベントで、2月ごろに行われます。
カーニバルはイタリア、ベニスの仮面舞踏会、そしてリオのカーニバルが有名ですね。特にリオは南半球にあり、季節が逆なので北半球の冬が夏となり、露出の高さやラテン系ならではの陽気で華やかな姿も目を引きます(ちなみに以前ベニスのカーニバルに行った時は真冬の寒さに震えました)。
調べるとスウェーデンではカーニバルの習慣は無さそうでした(2月のスウェーデンなんて寒いし暗いし雪だし)。けれどもイタリアだけでなく、ドイツでも大きなカーニバルがあり、また18世紀から始まったリオのカーニバルは1950年代には映画の背景となっていたので、スウェーデンでも知られていたのかもしれません。リンドベリのKarnevalシリーズの不思議で奇妙な雰囲気はそこから連想したのでしょうか。
この花瓶の絵は一見普通ですが、裏には鳥人間がキューピッドよろしく弓を持ち、魚に向かって矢を射ようとしています。この船も良く見れば帆の支柱には花がくくり付けられ役に立ちそうにありません。その代わりどうも下の大きな魚が船を動かしているようです。
こういう不条理な絵を見ると、どうしても画家の意図やモチーフの意味を探ろうとしてしまうのですが、この場合は単にその不思議世界を感じるだけでいいような気がします。
カーニバルで賑やかな音楽と衣装に酔いしれ、その雰囲気に身を任せるように。そもそもカーニバルの意味なんてその場にいる人たちは誰も考えていないように。このシリーズも、絵付師たちによって、感じるままに自由に生き生きと作られた雰囲気を楽しんでもらえればと思います。
こちらの花瓶は、サイトにアップをただいま準備中です。どうぞ、お楽しみに。

ミタ

いまは余程敬虔な信者でもない限り、断食する人はいません。
が、カーニバルは廃れません。
にんげんだもの(by相田みつを)

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