フィンランド映画『ガール・ピクチャー』You Go, Girls!

ミムラねえさんのムーミンマグ

フィンランド映画『ガール・ピクチャー』のオンライン試写に招待いただきました。最近は試写もオンラインになって地方に住んでいても参加できるのが良いですね。ちなみに1月にご紹介した『マイヤ・イソラ』もオンラインでの試写でした。

子どもと大人のはざま、17歳から18歳に差し掛かる3人の少女、ミンミとロンコとエマ。

3度の金曜日で、ミンミとエマはお互いの人生を揺るがすような運命の恋をし、ロンコは未知の性的快感を求め冒険する――。

10代はジェットコースターのようにアップダウンが激しく、多感な時期。主人公たちは自身のセクシュアリティーや恋愛指向にあえて名前を与えてはいないが、それぞれに異なるのは当たり前。

〈こうあるべき自分〉を思い描き、つまずき、ぶつかり、失敗しながらも誰かと寄り添い、自由を獲得する方法を学んでいく。
北欧発〈ジェネレーションZ〉のみずみずしい青春映画が誕生した。

映画『ガール・ピクチャー』オフィシャルサイト

フィンランドの女子高校生たちの友情、愛、性、夢の実現、悩みについて描いた、いわゆる青春映画です。ただ、今までの青春映画と異なるのはそれらがとても現代的に思える事。そして男性に性的に搾取されるエピソードが一つもないところがいい。本筋には関係のないところでは、日本とは違う文化に何度も驚かされました。ちなみに原題『Tytöt tytöt tytöt』はフィンランド語で「女の子たち 女の子たち 女の子たち」の意味。本来は女の子らしくない振る舞いを注意する言葉だそう。

主な登場人物は同じ学校に通う、ミンミ、ロンコ、エマの3人です。いつもどこか怒りを秘めていて衝動的に行動するミンミ。映画は反抗的な態度を取って体育の時間に飛び出したミンミを冗談交じりに励ますロンコから始まり、物語はこの二人の友情を軸に進みます。

クラスメイトの誕生日パーティー(まずここで開始時間が夜の10時というのにビックリ)に誘われたものの行きたくないというミンミをロンコが一緒に行こうと説得します。ロンコが参加したい理由はボーイフレンド探し。いや、ちょっと違うな。

ロンコは恋愛対象が異性なのだけど、性的に関心が無く誰とセックスしても興奮しない自分は異常なのではないかと悩んでいて、その自分を変えられる男性に出会えるかも知れないと期待しているのです。

その時点で日本との性意識の違いに二度目のビックリ。そういえば、日本育ちで中学生の時にデンマークに帰国したデンマーク人に学校で性体験がないのが自分だけだったのが恥ずかしかったと聞いたことがあります。以前観たノルウェー映画でも15歳くらいの子のセックスが当然のように描かれていて、それを見るたびに文化の違いをまざまざと感じてしまいます。

さて、そのパーティーでミンミはちょっと意識していたエマを見つけ、二人でパーティーを抜け出してドライブ。そして3度目の驚きはこれって恐らく飲酒運転。調べるとフィンランドは血中アルコール濃度0.05%までOK(ビール中瓶1~2本)とか。まあ、それはともかく、そのドライブで二人は一気に親しさを深め恋人同士となります。

エマは幼いころから多くの楽しみを犠牲にしてフィギュアスケートに打ち込み、今はヨーロッパ選手権代表の有力候補になっているにもかかわらず、スランプに陥っています。そのプレッシャーから逃れるためにミンミとの恋愛にのめり込むエマ。ところが、誰かと強い絆を作ることが上手く出来ないミンミはそんなエマを遠ざける行動に。

ミンミは子どもの頃に母親に育児放棄されて一人暮らし(恐らく)をしています。子どもの時から母には母の人生があるから仕方ないと自分で自分を説得することで我慢していたミンミ。彼女の怒りや衝動、人間関係を築く不器用さはその内に秘めた感情の歪みが原因となっているよう。エマとミンミが惹かれ合ったのは、それぞれ理由は違っても子ども時代がなく、早く大人にならなければいけなかった境遇が共通していたからかも知れません。責任から逃れ子どものように(いや、年相応にかな)はしゃぐ二人が切ない。

映画は最初の金曜日、2回目の金曜日、3回目の金曜日、そしてその翌日の土曜日と2週間と少しのお話しです。この間、悩み、傷つき、失敗し、感情を爆発させ自分を見つめ直した3人は、最後にありのままの自分を、本当の気持ちを受け入れることで前に進んでいきます。

3人それぞれの悩みや問題は、ミンミは母との関係、ロンコは性的傾向、エマは夢の実現。

最初に悩みが現代的に見えると書いたけれど、実は本質的には不変なテーマ。文化も国も違っているけれど、日本と変わらないのかな。ただ現代的だなと思ったのは、ミンミとエマの女性同士の恋愛については特別視されることも隠すようなこともなく、問題になっていないところでした。

見終わった時、頭に浮かんだ言葉は「Tytöt tytöt tytöt(やれやれ)」ではなく「You Go, Girls!(行け行け!女の子たち!)」。

最後に驚いたことをもう一つ。ロンコが誘われたパーティー会場になった別荘、豪邸過ぎやろ。いや、もしかしたらこれは超絶金持ちも庶民も一緒に遊ぶという北欧の平等が垣間見えるシーンかもしれない。知らんけど。

『ガール・ピクチャー』は第38回サンダンス映画祭ワールドシネマドラマ部門観客賞を受賞、さらに第95回アカデミー賞国際長編映画賞部門のフィンランド代表に選出されています。

日本では4月7日(金)より新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開。上映館など詳しくは下記リンク先の公式サイトからご確認ください。

映画『ガール・ピクチャー』オフィシャルサイト

2022年製作/100分/PG12/フィンランド
原題:Tytöt tytöt tytöt
配給:アンプラグド

トップの写真は映画の資料とムーミンマグ。ムーミンマグが意外なエピソードで映画に登場します。

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