映画『ラスト・ディール』古物商の醍醐味

昨年上映されたフィンランド映画『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』Amazonプライムで視聴できるようになったので早速鑑賞しました。

実は上映中も観たいとは思っていたのですが、生来の出不精で見逃していました。高校・大学と学生時代は月に何本も観ていたのですが、それは学校帰りだったから。思い返せば当時から休日に出かけてまで映画を観ることはなかった。出不精に加えて、今は1年も経たずにレンタルされたり(昔は何年も待たなければいけなかったのに!)オンラインで観られるようになったので、映画館に行くのは年に4、5回…。

年老いた美術商のオラヴィは、なによりも仕事を優先してきた。家族も例外ではなかったが、長年音信不通だった娘に頼まれ問題児の孫息子・オットーを職業体験のため数日預かることに。その矢先、オークションハウスである一枚の肖像画に目を奪われる。ひと目で価値ある作品だと確信したが、絵には署名がなく、作者不明のまま数日後のオークションに出品されるという。「あと一度だけでいい、幻の名画にかかわりたい」―オットーとともに作者を探し始めたオラヴィは、その画風から、近代ロシア美術の巨匠イリヤ・レーピンの作品といえる証拠を掴む。画家の命である署名がないことだけが気がかりだったが、オークションへ向け資金繰りに奔走するオラヴィ。そんな折、娘親子が自分の知らないところで大きな苦労をしていたことを知るが…。生涯を美術品に捧げた男がたどり着いた、真に価値ある人生とは――

https://lastdeal-movie.com/

公式のあらすじにもある通り、主役は老美術商です。もう商売は右肩下がりで思うような買い付けもできなくなっている状態。

私も古物商の末端として共感できる部分が多く、胸が痛くなり思わず怒りに震える場面も。

例えば、彼が600ユーロで入手した絵画を客が600ユーロにしろと値引きしたとき、言うに事欠いて「600ユーロで落札したのは知っているんだ」

だから?

今のネット社会ではオークションの情報は公開され、一般の人でも簡単にアクセスできるようになっています。恐らくこの客はネットで見たのでしょう。

でもね、私たちは交通費だって通信費だって光熱費だって家賃だってかかっているんですよ?手に入れるまで時間や日数も費やしているんですよ?買い付け価格で売れって、タダどころかマイナスにしろって意味ですよね?死ねということ?

しまった、うっかり主語を「私」にしてしまった。

ネットと言えば、映画の中で商品がネットで売買されている、といったような(うろ覚え)会話も出てきます。その流れの中で主役のオラヴィはスマホも持っていず、完全に時代に取り残されています。

しかし彼の価値を見抜く力は本物。誰も気が付かなかった名作に彼だけが気が付きます。

この絵は大化けする。

孫と集めた証拠で本物と確信した彼はあちこちに借金をして(そのせいで娘との関係がますます悪化させてまで)なんとか手に入れようと奔走します。

既に公開済みの映画なので、Amazonのサイトには感想が書き込まれています。その中でオラヴィのことをギャンブラーと評価している人がいて「それは違う」と言いたくなりました。

それは違う。誰も気が付いていない価値を自分が発見して、それが世間で評価された時の喜び。例えれば、宝塚歌劇の卒業式で目を付けた子がトップになった時のような、AKBで推しの子が一躍女優として注目される時のような気持ち…。いや、ちょっと違うか。

この仕事を始めた15年前はまだ同じようなことがありました。蚤の市でアラビアのエステリ・トムラがデザインしたお皿がたった1ユーロで汚れと埃にまみれている…売り手も私以外の客も誰も気が付いていない…その興奮。さびれたリサイクルショップでライヤ・ウオシッキネンのエミリアがたった10ユーロで寂しく並んでいるのを見つけた時の高揚感。その気持ちをギャンブルと言うのかも知れませんが、それは金額だけの問題ではなく、プライドの問題。そう、これぞ仕事の醍醐味。

ところが、ここ10年ほどはそんな出会いはありません。誰もがネットで簡単に価値を調べられるためか、どこに行っても同じものはほぼ同じ価格が付いています。また、個人がネットで販売できるようになったためか、掘り出し物に出会う確率はほとんどなくなっています。

だから私はオラヴィの気持ちが分かる。一緒に高揚し、一緒に怒り、一緒に悲しみに陥り、感情が大変なことになりました。

あまり書くとネタバレになってしまうので、これ以上はストップしますが、ネタバレにならない程度の結末についての感想を。

あらすじで「問題児」とされている孫は全然問題児ではありません。15歳の思春期らしい振る舞いはあるものの実は素直で、問題行動は持ち前の商才の現れ。きっと彼が何らかの形でオラヴィの跡を継ぐんだろうなと思わせたのはホッとする展開でした。

Amazonで視聴される方は下記リンク先からどうぞ。今ならプライム会員は無料、会員以外の方も400円でレンタル視聴できます。

2018年製作/95分/フィンランド
原題:Tumma Kristus
配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス
監督:クラウス・ハロ
製作:カイ・ノルトベルク カーレ・アホ
脚本:アナ・ヘイナマー

同監督による映画『こころに剣士を』についてはこちら。実話ベースと聞き驚いた内容です。

ロケ地の聖地巡礼したい。

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