スウェーデン映画「フレンチアルプスで起きたこと」~男は大変だ~

スウェーデン大使館さんに映画「フレンチアルプスで起きたこと」の試写会招待券を頂きました。
2014年のカンヌ国際映画祭で絶賛され「ある視点」部門で審査員賞を受賞。アメリカでも大変な反響を呼び、映画を観に行く、まさにその日にハリウッドでリメイクが決定したとニュースが発表されていました。
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上映前にスタッフの方が「上映時間は1時間58分」とおっしゃった時は正直「長いな」と不安になりました。なにしろ、昔と違い、最近は90分程度の映画が多く、その時間に慣れていたので途中で飽きないかと。けれども観終った感想は「とにかく面白くて飽きる暇が無い」。登場人物全員の気持ちに共感が出来るため、最後までストーリーの展開にのめり混んでしまいました。
物語の主人公は、このスウェーデン人の一家。ハンサムでエリートの夫、美しく知的な妻、かわいい子供たち。フランスに家族でスキーバカンスに来ることから、ある程度ゆとりのある暮らしをしているのがうかがわれます。
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休暇が長いことで知られるスウェーデンですが、映画の始めの方で妻のエバが、夫のトマスがワーカホリックであること、休暇はたったの5日間であること、を他の宿泊客に語り、仕事にかかり切りなトマスに対して持っているちょっとした不満が示唆されます。
そして事件は2日目。昼食中に起きた人工雪崩が思いのほか大きく、襲い掛かる雪に咄嗟に子供をかばったエバに対し、トマスが一人逃げ出した事から夫婦の絆が次第に危うくなっていきます。果たしてバカンスが終わる5日間でトマスは家族の信頼を取り戻すことができるのか。
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このエピソード、いやあ、分かる分かる、と思いつつ、では男女逆ならどうなっていたのかと考えてしまいました。
雪崩が襲ってくる、咄嗟に夫は子供たちを抱えしゃがむ、妻は悲鳴を上げて逃げ出す。戻って来た妻が「パパ!みんな大丈夫だった!?」「ママは大丈夫?」「怖くて逃げちゃった!ごめんね。パパはやっぱり違うわー」「ママも無事でよかった!」「パパありがとう!みんなもパパにありがとうって言いなさい」「ありがとう!」そして楽しいバカンスは続く。
ああ、そうなのです。トマスもすぐに非を認め、妻を讃え、ごめんなさいって言えば良かった。でも言えない。だって男の沽券にかかわるから。そしてエバは男らしくない行動に失望する。
男女平等で知られる北欧ですが、それでも男性らしさ、女性らしさや、男女の役割分担が期待されているのは、友人たちを見ていて感じることがあります。自宅に招待され、料理の腕を振舞うのは、ほとんどの場合女性の側。1か月以上のバカンスも「夫は仕事があるから後で参加する」なんて聞いたこともある。それに北欧には男性だけに徴兵制度があります(※国によっての違いは後述)。
何よりもエバをがっかりさせ、また混乱させるのは、トマスが「僕は逃げていない。逃げたというのは君との見解の違い」なんて言い訳がましい嘘をつくことでした。その嘘が露呈するにつれ、トマスは心にしまっている弱さも露呈していき、ボロボロになっていきます。その両親の不穏な空気を感じた子供たちの精神状態も徐々に不安定に…。
さて、この一家の行く末は…。
とにかく女性ならエバの気持ちも行動も痛いほどに分かるでしょう。それだけでなく、冒頭に書いた通り“登場人物全員の気持ちに共感が出来”、男性であるトマスの気持ちも、また巻き添え事故のように家族の事情に関わってしまった、たまたま同じホテルに宿泊しているマッツとファンニのカップルの気持ちも良く分かる。いやー、私がマッツ、あるいはファンニでもそうするよね(マッツがいい感じに狂言回しになって笑えるシーンを作っています)。
また、この映画の特筆すべきは、その効果音。ビバルディの「夏」が使われている以外は、すべてが“騒音”。電動歯ブラシのモーター音、人々の騒がしい話し声、清掃員の掃除機の音、スノーモビルのエンジン音、スキーの板やシューズがガチャガチャぶつかる音、リフトの歯車が立てるガタガタ音、(今話題の)ドローンのブーンという運転音、会話が聞き取れない程の大音響で流れる流行歌のBGM…。
それらの不快な音が積み重なり観客である私にも小さなイライラを作り、一家を襲うイライラとした落ち着かない緊張感を次第に共有していきます。
最後のシーンは観る人によって解釈が異なると思います。私はこのシーンは一家が危機から“降り”、トマスが理想的な社会人としての仮面を取り去った象徴に感じました。皆さんはどう捉えるでしょうか。
パートナーがいる人はもちろん、いない人にも是非見て頂きたい映画です。登場人物の誰かに必ず共感でき、最後まで目が離せなくなります。
日本での公開は7月からヒューマントラストシネマ有楽町ほかで。その他の上映館とスケジュールは公式サイトでご確認下さい。

ミタ


※北欧の徴兵制度について追記(Wikipediaより)
ノルウェーやフィンランド、デンマークでは男性に徴兵制が課されている。ただし代替役務を課することにより、良心的兵役拒否も許されている。
デンマークでは、段階的に徴兵期間が短縮され、それまで9か月だったのが4箇月間の基礎訓練だけで徴兵期間は終了し、それ以降の継続は選択できるようになった。
アイスランドに関しては徴兵制度を課したことが歴史上一度もない。(アイスランドは軍隊を保有していない)
スウェーデンでは、2010年7月1日に徴兵制度が廃止された。
ノルウェーでは、1年間の徴兵義務が、おそらく2015年から、女性にも拡大されヨーロッパで唯一、平時に女性を徴兵する国になる。

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