English man in・・・

こんにちは。
昨日の土曜日、我が家から徒歩10分ほどのお宅でイギリス人女性のお料理教室があると知ったので、好奇心に駆られて参加して来ました。
とはいえ、大変な人気教室で予約を取るのが難しく、今回はたまたまタイミングよくすんなり取れたのです。この写真はそのお教室で作った一つ、マフィンです。マフィンといっても甘い物ではなく、チーズ入りの塩味。最近話題のケークサレに近いものです。

イギリスではピクニックに持って行く事もあるとか。これから夏に向かってイギリスではさらりとした空気で暖かく、公園でお弁当を広げるにはいい季節になりますね。
料理を教えてくださった方はイギリス国籍ですが、イタリアで生まれで、外交官のお父様とご主人の仕事の関係で欧州各国から南米やアフリカなど何ヶ国も転々とし、インターナショナルな環境で学んだ、様々な国のお料理を講習してくださるそうです。
さて、このマフィンを乗せた愛らしい青い花のプレートは、スウェーデンRorstrand(ロールストランド)のIngrid デザートプレートです。

花にはあまり詳しくないのですが、これは”わすれな草”ではないでしょうか。手元のスウェーデン製のわすれな草柄のクロスと比べてみても同じ花に見えますし。

デコレートデザインは、Jacqueline Lynd(ジャクリーン・リンド)。ジャッキーとの愛称で呼ばれる彼女はスウェーデン人ではなく、イギリス人です。昨日のお料理の先生と同じく異国に住むイギリス人ですね。

いや、正確にはアイルランド人かな?イギリス領の北アイルランド、首都ベルファスト出身です。日本語ではイギリスと一まとめにすることが多いのですが、正確には”グレートブリテン及び北アイルランド連合王国”で、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの地域で構成されています。
以前、家人のクラスメイトがイギリスから来たというので「ではイングリッシュなのね」と聞くと「いや、ブリティッシュだよ。イングリッシュは一部の地域だけの呼び方だからね」と訂正されたことがあります。知識としては知っていても、身に染みていないことからの失言でした。

この地域のなかで、特に北アイルランドはイギリスからの独立紛争で知られています。1960年代後半から1990年代はIRA(アイルランド共和軍)によるテロが激化し、数千名もの死傷者がでるほど。

Jacqueline Lyndは1948年生まれ。青春時代はIRAとイギリス軍の抗争が激しい時でした。1970年に地元ベルファストの美術学校を卒業したLyndはイギリスのストーク・オン・トレントで職を得ます。
ストーク・オン・トレント(Stoke-on-Trent)はイギリスの半ばにある工業地帯で、ロイヤルドルトン、スポード、ウェッジウッド、ミントンといった名だたる名陶もあれば、私が個人的に好きな大衆向けのBroadhurst&Sonsもここに工場を構えていました。
大小さまざまな工房がある中で、Lyndがどのメーカーで働いていたのかは不明ですが、1974年、彼女はイギリスを離れ、スウェーデンのRorstrandで働くことにしました。

スウェーデンに来たのは、「1年だけ、ちょっと外国の生活を体験してみたかった」という26歳の若い女性らしい好奇心からだったそうです。ところが、結果、彼女はそのままロールストランドに16年所属し、スウェーデン人と結婚し現在もスウェーデンに住んでいます。
Lyndを魅了したのはスウェーデンの豊かな自然だったとか。そこで発見した花々を陶磁器のうえに再現し、多くの花をモチーフにした作品を作った彼女を”花の妖精”とも呼ぶ人も。作品にはJaponicaBirgittaJuliaMaudといった花や果実をモチーフにしたもの、これは花柄ではないですがIsoldeがあります。

時には一般市民を巻き込むようなテロの恐怖を常に意識し、緊張感の中で育ったLyndにとって、スウェーデンの大自然は伸び伸びとした心安らぐものであったのでしょう。もしかしたらアイルランド人差別のあった自国であるイギリスよりも過ごしやすかったのかもしれません。

no irish no blacks no dogs.jpg

余談ですが1960年代のイギリスにはこんな「No Irish, No Blacks, No Dogs.(アイルランド人、黒人、犬お断り)」なんて張り紙があったと聞きました。
1980年代まではヨーロッパ最貧国と呼ばれ、いま30代後半でシステムエンジニアの友人の住んでいた小さな町では「子供の頃は電気が無くてお風呂は日曜日だけ。お母さんが暖炉でお湯を沸かして、大きなたらいに移したお湯を兄弟4人で入った」ほど国全体が貧しく、職を求めて多くのアイルランド人が海外に移住していったのは、つい数十年まえの話です。
やむにやまれず故郷を出て行かなければいけなかったアイルランド人の愛国心はとても強いそうです。それを思いながら、スウェーデンを永住の地と決めたLyndがIngridで描いている、わすれな草の花言葉が”私を忘れないで”なのだと気が付くと、なんだか切ないですね。

ミタ

タイトルに使った「English man in・・・」はスティングの「English man in N.Y.」を借りました。この歌詞の「I’m an alien」のエイリアンは外国人という意味で、アイルランドに住んでいたときに外国人登録をする場所は「エイリアンオフィス」と呼ばれていました。でも、どうしても映画の影響で宇宙人というイメージが付いていて、そのオフィスに行くたびに可笑しな気持ちになったものです。

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