昨日、12月公開予定のスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』の試写会へ行って来ました。
原作も映画もスウェーデンで大ヒットした話題の作品です。主人公オーヴェは43年勤めた会社を解雇され、妻には先立たれ、絶望感から自殺をはかるのですが、そのたびに引っ越してきた隣人に邪魔をされ、どうしても死ぬことが出来ない。それどころか、次々に起こる困りごとを無視することが出来ず、ついつい世話を焼いてしまって、ますます死ぬことが出来ない。本人が望んでもいなかった隣人との交流から、長年心にしまっていた思いを打ち明ける事で温かな関係を築いていく話。
オーヴェはいささか融通の利かない人で、ゴミの分別違反、駐車違反、進入禁止路での車の通行などなど、規則に従わない人や矛盾を感じることには断固戦う、いわゆる”頑固おやじ”。そんな彼を疎ましく思う近所の人もいるのですが、昔からの住人には案外好かれています。なぜなら、困っている人、弱っている人には手を差し伸べずにはいられない、本質的には優しい人だから。しばしば差し込まれる過去の回想シーンでも、彼が優しく、勇気があり、不正義には猛然と立ち向い戦う人であることが丁寧に積み重ねて描かれていきます。
ユーモアもたっぷりで、大笑いはしなくても、クスッと笑う場面が随所にちりばめられています。同時に涙腺を刺激するシーンも同じくらいあるから、困ったことに、涙がにじんだと思えば、ニヤニヤ笑ったりと忙しい。
父親との思い出、亡き妻とのやりとり、老人と子供、老人と猫(かわいい!)、これだけでも定番の感動ポイントが満載なのですが、私が心動かされたのは別のエピソード。
隣家に越した来たイラン人女性にとある理由で運転を教える羽目になったのですが、彼女はどうしても運転が上手く出来ずにやけっぱちになってしまいます。そんな彼女に、正確な言葉は覚えていませんが「お前はあんなひどい戦争を乗り越え、難しい外国語(スウェーデン語)を覚えたじゃないか、運転なんてそれに比べれば簡単だ」と発破をかけるところ。
そして、ある理由で(それもオーヴェの優しさを示すエピソードですが)ケバブ屋に行き、従業員の青年がメイクをしていることを指摘し「何故化粧をしてるんだ!ゲイか?」と大声で尋ねるオーヴェ。本当はみんな心で思っているけれど実際には口にしない事をストレートに問うために、周囲が気まずい雰囲気になる中、青年が「ゲイです」と答えると「そうか、ならいい」とあっさりオーヴェが納得するところ。
そう、オーヴェはルールに従わない人を怒鳴りつけては憤ってばかりの偏屈で付き合いづらい人に思えますが、人種や性的マイノリティーを理由に人を差別しない、むしろ理解を示し寄り添う、実はとても公平な人なのです。
オーヴェの原動力は怒りじゃないかと思うほど、何かに怒っては驚くべき行動力を見せます。でもその怒りは愛情や優しさから生まれたものばかり。だから見ている私たちも安心して彼の怒りに付き合っていけます。
そしてラストシーン。ハリウッド的な大団円ではありませんが、ここまで付き合った観客は、ああ、オーヴェ良かったね、と彼の幸せを噛みしめることでしょう。
好きなシーンが多すぎて全部あげると盛大なネタバレになるのでここで止めておきます。ただ、後の妻になるソーニャとの初デートは良かったなあ。予告編にもあるから書いてもいいかな。レストランでキスをしている場面。ここに至るまでのやり取りからの、このキスはオーヴェとソーニャの人柄が一瞬で分かる感動的なシーンでした。
12月17日にヒューマントラスト渋谷と新宿シネマカリテで公開。そのほかの地域でも順次公開予定です。劇場など詳しい情報は下記リンク先の公式ホームページからどうぞ。
『幸せなひとりぼっち』
ミタ