フィンランド映画『アアルト』人間アアルトのドキュメンタリー

フィンランドを代表する建築家でデザイナー、アルヴァ・アアルト(Alvar Aalto)の生涯を描いたドキュメンタリー『AALTO』の試写会に行きました。

アアルトは世界的に有名なデザイナーでフィンランド国内だけでなく、国際的にも活躍しました。もちろんフィンランドには彼の作品が多くあり、フィンランド人にとって馴染み深い存在。私は建築は得意ではないので、あまり深くは知らないのですが、アアルトがデザインした有名な「アアルトベース(花瓶)」を一つ持っています。一見使いづらそうな形なのですが、ポンと花を投げ入れても波型のどこかに引っかかって形になるので気に入っています。

パンフレットに寄稿されたフィンランド大使館のライラさんによると、このアアルトの花瓶はどの家にも一つはあるとか。

(C)FI 2020 – Euphoria Film

「偉大な」の冠言葉で語られることもあるデザイナーですが、作品以外の面ではあまり知られていないかも知れません。映画では彼の作品だけでなく、人間臭い一面を描きながら、愛妻アイノに見せる弱さや深い情熱に迫ります。当時撮影された動画も多く使われ、動くアアルトはかなり貴重(な気がする)。湖で泳ぎを楽しむ様子は、2009年にアアルトの家に行った時、ガイドさんが「アアルトは頻繁に湖で泳いでいた」と説明されたのを思い出して、感慨深い。

(C)Aalto Family

もちろんアアルトが設計した建築物もいくつも紹介され、中でも空撮シーンには引き込まれます。特に雪に覆われた森の中のパイミオのサナトリウムを空から撮影した映像には感銘をうけました。90年も前に建てられた自然環境がそのまま残っているのにも驚き。日本なら近くまで建築物が増えているかも知れない。ほぼ日本と同じ国土に兵庫県ほどの人口しかない国だからなあ。山もないし。

俯瞰だけでなく、レンガや持ち手などのディティールにも迫り、その美しさにも目を捕らわれました。面白かったのは、タイルを壁にペタペタ貼って作っているのかと思いきや、パネル状にしてクレーンで持ち上げていたところ。建築方法の意外さに驚き。建築中の映像を見ると当時の雰囲気がより良く分かるでしょう。

(C)FI 2020 – Euphoria Film(イル・カレ邸)

映画では様々な人たちが彼の人柄や作品について語ります。新しい視点で彼の才能と創造力を垣間見ることができますし、意外な一面にクスリと笑ってしまう証言も。またアアルトが設計したマイレア邸に今も住んでいるという施主の息子さんの思い出話は、当時いかに斬新な家だったのか分かって面白い。初めて映像で見るマイレア邸は圧巻の美しさで、次回のフィンランド訪問の際には行きたい候補になりました。

映画では当時の人たちのニュース映像もあり、公共の建物が贅沢すぎる作りなのに対して批判的な意見も紹介されます。また晩年においては、海外での評判が高まるのに反し、時代遅れのデザイナーとして国内の評判が芳しくなかった事実に驚かされました。若い時から活躍していたアアルトですが、強い光には濃い影が出来るのかも知れません。もともと好きなのか、紛らわしたいことがあったのか、晩年は飲酒問題が深刻だったというのも意外な一面。

今では彼の功績は讃えられ、2010年にヘルシンキ工科大学、ヘルシンキ経済大学、ヘルシンキ美術大学の三大学が合併して生まれた総合大学にはアアルト大学と彼の名が冠せられています。

今回の映画は我が家のリフォームを手掛けてくれた設計士の森本さんと行きました。森本さんはもともとアアルトが好きで何回かフィンランドに行っている人。

鑑賞後にお茶しながら聞いた森本さんの建築士ならではの視点での感想が面白かったです。木の高さとか。面白かったけれど、え、そんなところあったっけ?とちゃんと見ていないところもあったので、森本さんの解説付き鑑賞会なんてやったら楽しそうだなあ。

映画『アアルト』は10月13日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺、シネ・リーブル梅田、UPLINK京都、シネ・リーブル神戸ほか全国で順次公開。

詳しい上映情報は下記リンク先からご覧ください。
https://aaltofilm.com/

邦題:アアルト  原題:AALTO 監督:ヴィルピ・スータリ(Virpi Suutari)
制作:2020年 配給:ドマ 宣伝:VALERIA
後援:フィンランド大使館、フィンランドセンター、公益社団法人日本建築家協会 協力:アルテック、イッタラ
2020年/フィンランド/103分/(C)Aalto Family (C)FI 2020 – Euphoria Film  公式HP:aaltofilm.com

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