あるデザイナーのビックリの晩年

スウェーデンの陶磁器メーカーDeco(デコ)の保存容器が、ほぼ8年半ぶりに再入荷しました(前回のアップは2010年6月でした)。Decoは1955年にヘルシンボリに創業。当店でも人気のあるRosa Ljungのヒット作も生みましたが、1980年代にはHöganäs(ホガナス/へガナス)の下請けもしていました。ところがホガナスがタイに工場を移したことがきっかけで2008年に倒産しました。

器に話を戻すと、右の赤い蓋が「Sill(ニシン)」の酢漬け用、左の青緑の蓋が「Gurka(キュウリ)」酢漬け用。どちらもスウェーデンの食卓には欠かせない食べ物で、日常はもちろん、クリスマスや夏至祭などのご馳走のテーブルにも並びます。

裏側には窓の絵が描かれていて、実はこれは家の形なのだと分かります。蓋に密封性はなく、恐らく保存用ではないでしょう。保存用ではないとしたら何か、というと、主に飾り用。そして、来客の際に中身を移して食卓に出すもの。友人宅でご馳走になって、こんな器にニシンやキュウリの酢漬けが盛られて出て来たら「かわいい!」と思わず声が出てしまうでしょうね。

2010年に自分で書いた商品説明を読み返すと『E.Jarupとサインがありますが、このデザイナーについて詳しくは分かりませんでした』とありました(忘れてた)。けれども、ヴィンテージは日々新しい情報が更新されていくので、過去に分からなくても新たに調べると判明するのはよくある事。というわけで、調べ直すと、スウェーデンのデザイン系Q&Aサイトで、デザイナー名はEdvin Jarupと判明。女性デザイナーと思っていましたが、男性でした。しかも、そのQ&Aでは、1950年代ですか?の質問に1974年から製造開始されたと答えています。

別のスウェーデンのメーカーJieで1950年代に、Anita Nylundが作った保存容器の作風に似ていたので、私も50年代かなと見当をつけていたため70年代とは意外。

Edvin JarupのDeco所属期間が分かれば裏が取れるかもと更にネットで検索すると、Helsingborgs Dagblad(ヘルシンボリ新聞)の2016年の記事で、アーティストのEdvin Jarup が、95歳を目前に亡くなったとの報道が見つかりました。

ただ、その記事は会員限定で、ヘッドラインしか読めない。会員になるにはスウェーデンの国民番号か何かが必要なようだったので、続きを読むのは断念。そこで、別の記事が無いかと更に検索。そうすると思いがけないニュースが!

Edvin, 92: “Märta har gjort mig så glad”
(Edvin 92歳「Märtaは僕を幸せにしてくれた」)

日本で言う「夕刊フジ」的な(夕刊フジを読んだことがないので勝手なイメージ)のスウェーデンの夕刊「Expressen」の2014年の記事です。

記事によると、結婚70年後に妻を失ったEdvin Jarup (92歳)は老人ホームに引っ越し、隣の部屋のMärta Abramson (94歳)と恋に落ち、婚約したとか!

記事にはEdvinの経歴、例えばデザイナーだったとか、は一切書いていなかったのですが、名前だけでなく年齢もピッタリ。どう考えても同一人物です。

ヴィンテージに関わる仕事をしていると、取り扱っている商品のデザイナーが亡くなったニュースを聞く事がしばしばあり、もしかしたら(もちろん無いのは分かっていますが可能性として)お会いできたかもしれないのにと残念な気持ちにとらわれることがあります。

今回も、最初のヘルシンボリ新聞の記事を見たときは「またか…」と悲しくなりましたが、 Expressenの婚約ニュースを読んで、パッと明るい気持ちに。記事には優しく Märtaの腕に手を乗せるEdvinの写真がありました。

また2016年の訃報にはひ孫さんを膝に乗せて微笑んでいる写真が投稿されていました( スウェーデンは一般人の訃報がウェブ公開されるのはよくある事でお悔やみも投稿できます)。

こんな可愛らしいデザインをする人ですから、きっとご本人も可愛らしくて、最期まで家族や知人に愛された人だったのかもなあと想像しています。

ところで結婚70年で奥さまを失ったというのは、考えてみれば奥さまもかなりのご長寿ですね。

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