KiltaとTeemaとカイ・フランク

買い付けに行けない間、フィンランドのディーラーさんからスマホのやり取りで買い付けをしていました。先月来た写真からティーマのイエローのボックスを選んでオーダーしたら、そのあとに「もう一つ入ったよ」と連絡がきたので追加しました。

届いた箱から取り出すと、色が違います。なんと追加した方はティーマでなくキルタ。写真の左がティーマで、右側がキルタ。ティーマに比べるとキルタの方が淡い卵色をしています。(キルタが斜めになっているのは傾斜のある椅子の上に乗せたから)

ご存じの方は多いと思いますが、キルタ(Kilta)はティーマ(Teema)の前身で1953年から1975年まで作られました。キルタが製造中止になったのは1973年の石油ショックが工場に打撃を与えたからでした。そのとき、キルタだけでなくパラティッシも製造中止。このことはフィンランドの新聞では国家的損失と報道され、これらの作品を残すべきと論調が巻き起こるほどでした。

キルタに話を戻すと、キルタはカイ・フランクの脱構築宣言「ディナーセットを粉砕せよ」のコンセプトの下で生まれたシリーズです。食卓でバラバラの形や装飾の食器を使う日本の暮らしからは少し想像しづらいかも知れませんが、欧州では用途により異なる形で、同じ装飾デザインの食器40ピース、あるいは60ピースを揃えるのが通常です。そうではなく、多目的な用途で使え、他のデザインの食器とも組みあわせられるようにとカイ・フランクが提案したのがキルタというわけです。

キルタのシリーズは当初フィンランド国内ではあまり人気がなく、アメリカなど海外で開いた展覧会での反響を受けてフィンランドでも広がってきたとか。保守的な欧州に比べアメリカは進取気鋭の精神が強かったのかも知れませんね。(欧州は戦争によって何世紀も培った歴史と暮らしが破壊されたため戦後の人々は古き良き時代にアイデンティティを求める傾向もあったそうです)

キルタは実用的で機能的、更に価格も安い。単に機能的なだけでなく、どこか温かみがあるのは大衆のデザインを生涯求めたカイ・フランクの人柄を現しています。カイ・フランクが語った”グッドデザインとは”の有名なたとえ話に「農夫が大きなライ麦パンの中をくり抜いてバターを詰める、昼食を済ませたらそこにはパンもバターも残っていない」があります。彼にとってそこにあるのが気が付かないくらい存在感が無い日常品が理想。もっとも、もっとシンプルに、もっとシンプルにと要求する彼に部下はナーバスになっていたらしいですが。

そして1983年にキルタは素材や形を改良してティーマとして再販売されます。

キルタにはオーブン対応とロゴマークにあります(半円に鍋が入っているマークはオーブン対応の印)。

新しくなったティーマは時代を反映してオーブンだけでなく、食洗器と電子レンジも対応になっています。

ところで、現行のティーマのロゴはイッタラ(Iittala)ですね。これは2001年の911テロの影響で中東をイメージするアラビアのブランド名ではアメリカで売れなくなってしまったから。なので現在はアラビアロゴはフィンランド国内用のみになってしまっています。アメリカの市場はかくも大きかったのですね。

さて、カイ・フランクはティーマの復刻を手がけたのち、1988年に旅先のギリシャで亡くなっています。その時、ヘルシンキのアルテック社はティーマの黒でメインディスプレイを飾りました。簡素で無装飾で、まさにカイフランク的追悼であったと逸話が残っています。

こちらのティーマとキルタは11月25日にアップ予定です。いましばらくお待ちくださいね。

ちなみにティーマはフィンランドの発音ではテーマ。日本では英語読みが定着しています。

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