戦時下の花リンドベリのファイアンス焼

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グスタフスベリを代表するデザイナー、スティグ・リンドベリの作品の一つに「Fajans(ファイアンス)」があります。
ファイアンスとはシリーズの名前でなく、焼き物の手法で、13世紀にイスラムからヨーロッパに伝わりました。ヨーロッパでそれぞれの発展を遂げ、イタリアでは「マジョルカ焼き」、オランダでは「デルフト焼き」と変化しました。

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それまで透明な釉薬が使われていたところ、錫(スズ)を含んだ白の釉薬を掛けることで、その上から鮮やかな色で彩色が出来るようになりました。
また火に入れる前に釉薬の上に彩色をするので、顔料はフレスコ画のように釉薬に吸い込まれ、鮮やかな色彩を保つ事が出来ます。

16世紀ごろには盛んに作られましたが、やがてコストの安い他の陶磁器に席巻され徐々に衰退。リンドベリがグスタフスベリに入社した1930年代には既に過去のものとなっていました。

けれども、1920年代からグスタフスベリでは、リンドベリの師匠であるヴィルヘルム・コーゲらが、18世紀のような日用品は無理でも芸術作品として再現できないか、と復刻に取り組んでいました。

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(写真左)ヴィルヘルム・コーゲ、(写真右)スティグ・リンドベリ 1945年

以前も書きましたが(受け継がれる美)コーゲはそもそも画家であったため、キャンバスのように自由に色を表現できる素材を求めていたようです。コーゲに弟子入りしたリンドベリも共にファイアンスの課題に取り組みます。

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そして1942年、過去のものとなっていたファイアンスに新しく芸術的価値を加えたグスタフスベリのファイアンス焼きが展覧会で発表。
その輝く色彩で表現されたロマンチックで新しい雰囲気を持った作品群はスウェーデン陶芸界に驚きを与え、その場で国立美術館が数点の買い上げをしたほどでした。

当時ヨーロッパ全土は戦争の最中。不安と沈うつな気分が蔓延していたこの時代、明るくのどかな花のようなファイアンス焼きは人々を魅了しました。とはいえ、グスタフスベリ製陶所も材料不足や人手不足の問題を抱えながらの制作だったそうです。

ファイアンス焼きは土器なので特有の温かな質感があります。釉薬に直接描いた彩色は、釉薬に吸い込まれ、筆で描いた柔らかさが強調されています。描き直しが利かないので、熟練の絵付師によって描かれたのでしょう。

バックスタンプに入った星、月、魚、傘、ハート、鳥などの小さなマークは、fajansmålareと呼ばれる絵付師のサインです。それらの多くのサインと絵付師の名前の照合が資料として残っているのには驚きます。ファイアンスの絵付師は大切にされていたのでしょう。

今回は写真のファイアンス焼きのボウルが入荷しました。こちらは明日(6月20日)アップ予定です。

スウェーデンは中立国でしたので、戦場とはなりませんでしたが、南からはドイツ軍、北からはソ連軍が迫り、かなり危険な綱渡りをしていたようです。

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