戦後に夢を作ったデザイナー

こんにちは、この不思議な生き物はスウェーデン、ロールストランド社でSylvia Leuchovius（シルヴィアレウショヴィウス）がデザインしました。
彼女は1915年生まれ、主にアート作品を手がけていたので、あまり作品が知られていませんが、数少ないテーブルウェアの一つにロールストランド250周年記念として作られたSylviaシリーズがあります。
ちなみにこのSylviaシリーズはシルヴィアと同じ名前ですが、デザイナーの名前を付けたというよりも、同年（1976年）に現・国王カール16世と挙式をした、現・シルヴィア王妃にちなんで名づけられたものではないかと、アンティークショップのオーナーさんに聞きました。
エレガントなスミレの姿を描いたSylviaシリーズは1976年から1982年のロングセラーとなり、今でも根強い人気があります。今回、Sylviaの事を調べた過程で、モデルデザインはMarianne Westoman（マリアンヌ･ウエストマン）とありました。
それは知りませんでした。かなり驚き。
この時代の作品は作者が曖昧なものが多いのですが、これは美術館資料なので間違いないと思います。
ウエストマンを始め、リサ・ラーションなどの有名なデザイナーには若くして天才伝説がつき物なのですが、シルヴィアの場合はちょっと違います。

彼女は最初は画家かテキスタイルデザイナーを目指していて、実際服飾関係の養成を受けていたようです。その後アートスクールに入りなおし、ロールストランドにデザイナーとして就職したのが1949年、30歳になろうというときでした。
戦後の大量スピード生産の一方で、鳥、卵、植物を立体的なドットで表現した牧歌的で夢のような作品は、戦時中に爆撃の影に怯えて過ごしていた人々に喜ばれ、受け入れられたそうです。戦争前の平和な時を思い起こさせ、またこれから始まる平和な時代の夢を感じさせたのでしょうね。
何度かこのフクヤ通信で書いていますが、フクヤの扱っているお品のデザイナーたちも、当時その製品を購入した人々も、ほとんどは地上戦すらあった戦争を体験していること、住む家や思い出や身内を戦争で亡くしている人も珍しくなかったこと、を忘れるわけにはいきません。
1971年、理由を調べ切れなかったのですが（時間があるときに調べますね）ロールストランドはデザイナーの解雇を行います。シルヴィアも解雇された一人でした。ところが翌年1972年、シルヴィアは解雇されたデザイナーの中で唯一人、フリーランスとしてロールストランドに戻ってきます。
そして1976年に先ほど書いた様に、ロールストランド250周年モデルを手がけています。その1976年、デザイナーを引退。2003年に亡くなるまでの人生を若いときの夢であった、画家として終えました。
さて、話は変わりますが、このオブジェ（何の動物？）と並べて置いたのはロールストランドのAnemonシリーズです。Anemonシリーズは一時期デザイナーがマリアンヌ・ウエストマンと言われていましたが、今ではスウェーデン国内でも作者不明が通説となっています。それ以外にもAnemonには不明な点があり、謎のシリーズなのです。以前その謎について書きました。
→謎多き、Rorstrand Anemon
さて、ここからは実に個人的な意見なのですが、今回のオブジェの入荷をきっかけにシルヴィアの作品をいくつも見ているうちに、ふとAnemonのデザイナーは彼女ではないのか、と思い始めました。Anemonは1965年に製造されています。このオブジェも1960年代のようです。花柄の表現がそっくりです。これだけでなく、他のアート作品では更に良く似た、花芯の周りにドットのある花もありました。
もしや・・・？あるいはシルヴィアの作品から発想を得て別のデザイナーがデコレートしたのか？
この新説、いかがでしょうか？

ミタ

あくまでも私の感想です。たまにここで「○○なんじゃないかな～？」と書いたことが他のショップで「○○です」と断言して書かれているのを発見して、ぎょっとなることがあるので、念のため・・・。