さて、2日目の昨日はマルメのアンティークショップを周って精力的にスウェーデンの陶器を入手。
そのとき4週間前にオープンしたばかりという、熱心なショップのオーナーに「自宅にはもっと有るから、明日どうですか」という魅力的な誘いを受けたのですが、私達には断らざるを得ない理由がありました。
それは、一年ほど前から付き合いのある、アンティークショップのオーナー、エバの家を訪問する予定があるからです。
エバは、ショップのオーナーといってもお店は持たず、仕事をリタイヤした後に、コレクションを年に数回のアンティークフェアーで販売しているという、コレクターとショップの中間のような人。
さて、約束の時間に宿に車で迎えに来てくれたのは、初めて会うエバのご主人。私達の姿を見つけて、車の中から大きく手を振り、陽気に現れました。
挨拶を交わしながら車に乗り込むと、お昼ご飯は食べたか聞かれ、食べていないと答える私達に「それは良かった。ぜひ私達と一緒にお昼をしませんか?エバも待っていますから」と嬉しい誘いです。
てっきり自宅と思ったのですが、どうやらレストランへ連れて行ってくれるよう。目的地へ向かう道すがらご主人が車の中から一軒の家を指差し「あれが私達の家です」そうして、しばらくするともう一軒を指差し「あそこは亡くなった母が住んでいたのですが、今は私達が管理をしています」と、ここまでは普通の会話の範疇。
次にまた別の家を指差し「あそこも私達の家です。以前は息子が住んでいましたが、今はロンドンの大学院です」
「・・・・・あの・・・失礼ですが、家は何軒お持ちなのでしょうか?」
「いくつも(Many)。」
私の質問にまるでナゾナゾのような答です。
心理テストか?
やがて到着したレストランは海辺の瀟洒な建物。エバもそこで待っています。
レストランに入ると、そこは彼らの行きつけらしく店員が次々に挨拶をし、二人と短い会話を交わします。席に着くとご主人は私達にはメニューを渡さず「私を信じてオーダーさせてくれますか?」「ええ、お願いします。」
そうして、やがて運ばれた魚料理の美味しかったこと。付け合せのポテトがこれまた甘くて美味しい。食事の間もご主人の巧みなトークに間が持たないなんて事もありません。
ところでここで、もうひとつの不思議が。
レストランの横を散歩する人たちが何人も、彼らの姿を見つけると手を振り会釈して通り過ぎます。
「小さな町ですからね」とご主人。「はあ、そんなもんですか」と間抜けな答えをする私。
食事も終わり、すっかり満足した私達は再び車に乗り、ご主人のお母さんの残した家へ。それは、その庭の片隅に小さな小屋があり、そこがアンティークの保管場所になっているからです。
古い瀟洒な建物は意外と広い庭を持ち、庭の中心には小さな人工の池と可愛らしいアシカの形をした噴水がありました。
夢中になって商品を吟味したり、エバに値段を尋ねたりとその小屋で2時間ほど過ごしている間、ご主人は出たり入ったりしながら「庭でブドウを摘んだので食べてくださいね」「庭で採ったりんごをどうぞ」と甘くて美味しい果物の差し入れです。
買い付けも終わり小屋を出るとご主人が「終わりましたか?ところで私達は、まだいい友人ですか?」とお茶目に笑い、車まで歩きながら「スウェーデンの典型的な家を訪問したことは?」と尋ねてくれます。
「いいえ、まだありません」と答えながら周りを見渡すと、さっきまでは夢中で気が付かなかったのですが、周囲には何やら豪邸が並んでいます。
そこでまたまた疑問が頭をよぎりました。
・・・・ここは?
「では、ぜひ家に来てください」「喜んで!」
車で数分走り案内されたのは、赤い屋根に白い壁、塀に沿って小さな花が植えてある、まるで絵本に出てくるような可愛らしい自宅。
「可愛い!」とはしゃぐ私に「中は意外と広いんですよ」とご主人。
「あら、そうなんですか」と中に入った私達の目にまず飛び込んだのは、壁いっぱいにほぼ天井までの書棚を背にした、10畳ほどのダイニング。書棚の上には一目見て貴重なものと分かる、スカンジナビア各国のビンテージが所狭しと乗せてあります。
床に目を転じると、踏むのが気が引けるような美しいピースカーペット。
右を見ると、20畳ほどの広さのリビング。壁の一面には同じように天井近くまでの書棚が占め、アンティークやビンテージに関する本がびっしりと埋まっていて、その上には本でしか見た事のないようなリンドベリの作品が並んでいます。上を見ると見事な象嵌のシーリングランプ。そこから横を見ると8畳ほどのサンルーム。ガラスの扉の向こうには美しい庭が広がっています。サンルームとリビングの境目にはオープン棚がしつらえてあり、そこにもビンテージの数々が。
あっけにとられ「ここは・・・まるでミュージアムですね・・・」とつぶやくとエバが「ちょっと典型的なスウェーデンの家、とは言えないかもね」とご主人に笑いかけました。
お二人に「コーヒーをどうぞ」と言われても、初めて見るようなお宝の一つ一つに目を奪われて、それ所ではありません。
呆然とコレクションを眺めながら、10分後くらい経ってやっと落ち着き、コーヒーとお菓子を頂く間、お二人から50年間掛けて集めたコレクションについて、貴重で愉快なお話を沢山伺えました。
数時間後周りが暗くなり始め、名残惜しいお別れの時間です。エバにさよならを言い再会を誓い、ご主人が運転する車で宿まで向かいます。
そのとき、ついに我慢しきれなくなって「ちょっと聞いてもいいですか?お仕事は何をなさっているのですか?」と尋ねる私にご主人は
「見せてあげますね(I’ll show you)。」とまたしても不思議な答え。
やがて、車の窓から手前に見えてきた建物群を指差し言うには
「ここのオーナーなんです。この印刷会社を経営しているんですよ」
・・・マジ?
「か、か、会社の名前は?あ、今メモるの忘れちゃった!あー!あなたの名前をネットで検索したら出てくるかしら?」
「かも知れませんよ。私は地元の政治家でもありますから。」
・・・マジ?
「全ての謎が解けましたー!」
と探偵ドラマのように絶叫する私に「分かりましたか?」とゆったりと微笑む彼。
真実はこうして最後に語られる。断崖絶壁の上でないのが残念。
ニックネームは社長で決まりです。
ミタ
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社長コレクション(略してシャチョコレ)の一部です。
リビングの本棚の上にある、リンドベリの作品。
馬が気になって「そこのリンドべリ見せてください」と頼むと「どの?」と返されました。
まあ、確かに隣もその隣も多分、その向こうにあるのもリンドベリですが。
リビングの別の壁際にあるリサ・ラーソンたち。
そういえば、右端のハリネズミ、買い付けてきましたよ。別の店で。
ピンボケですみません。
えーと。このピアノの上にあるのは、コスタボダの人気デザイナー、Ulrica Hydman Vallienのご主人が作った陶器だそうで。
えー。名前は失念しました。ちなみに同じ作者の巨大な馬の置物もあり。
ダイニングの本棚の上にあった、ヴィンブラッドの花瓶を下ろしてもらって撮影。
向こうの寝室と書斎に続く廊下に、ぼんやりと別のコレクションが写っています。
素敵なお庭に飾ってあった陶板。これについて聞くのを忘れてしまいました。隣の温度計に気をとられて。
マイナス40度まで有るのって、どうよ。
プラス50度もどうかと思いますが。
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3日目 謎の男現る
10月13日