映画『TOVE/トーベ』誰だって風を待っている

フィンランド映画『TOVE』を観てきました。トーベ・ヤンソンの生涯について少し見聞きして知ってはいましたが、できれば先入観なしで観たかったので、映画に関する事前情報は何も入れずに観に行きました。(今回は予告編すら観なかったな。)


第二次世界大戦下のフィンランド・ヘルシンキ。激しい戦火の中、画家トーベ・ヤンソンは自分を慰めるように、不思議な「ムーミントロール」の物語を描き始める。

やがて戦争が終わると、彼女は爆撃でほとんど廃墟と化したアトリエを借り、本業である絵画制作に打ち込んでいくのだが、著名な彫刻家でもある厳格な父との軋轢、保守的な美術界との葛藤の中で満たされない日々を送っていた。それでも、若き芸術家たちとの目まぐるしいパーティーや恋愛、様々な経験を経て、自由を渇望するトーベの強い思いはムーミンの物語とともに大きく膨らんでゆく。

そんな中、彼女は舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーと出会い激しい恋に落ちる。それはムーミンの物語、そしてトーベ自身の運命の歯車が大きく動き始めた瞬間だった。

映画『TOVE』公式サイト

物語は1940年代から50年代のフィンランドを舞台に、若き日のトーベ・ヤンソンを描いています。トーベはフィンランドでも少数のスウェーデン語話者のため、映画はフィンランド語ではなくスウェーデン語です。フィンランドはスウェーデンに支配されていた時期があったので、往々にしてスウェーデン語話者は富裕層や知的階級。余談ですが、フィンランド国歌を作詞したルーネベリもスウェーデン語話者だったので、オリジナルの歌詞はスウェーデン語。

さて、話は戻って。映画で描かれるトーベは、熱意と才能はあるのに、仕事も恋愛も家族関係もどん詰まり。理想と現実のギャップの中でずっとずっと苦しい苦しいともがいています。

トーベの父親は名の知れた彫刻家で、才能ある娘にも同じようなファインアート(純粋芸術)の道に進んで欲しいと願い、トーベが糊口をしのぐために描き、やがて世界中で人気を博したイラストやコミックを良しとしていません。トーベ自身も心の中でファインアートの方に未練がある上に、芸術で父親に認められたい思いにさいなまれています。

プライベートでは、愛する相手は既婚者や自分以外にも多くの人と恋愛関係にあったりと、100%自分を愛してくれない人ばかりでトーベの心を傷つけます。仕事も恋愛も自分が思っているようにならない…それでもトーベの豊かな想像力が生み出す魅力的なキャラクターや物語は本人の思いとは別に人々を捉え人気作家へと昇っていくのです。

本当の自分は何だろう、自分の道は?自分がやりたいことは?模索し続けるトーベ。

物語のラスト、トーベはあることがきっかけで自分を縛っていた鎖から解き放たれます。観ている方も息が詰まるような場面が続く物語の最後、トーベに強く吹く風は私にもぶわーっと吹いたような解放感があり感動的。

そしてシナモンロールを手にふらりと現れるトゥーリッキ。彼女がトーベの生涯のパートナーとなることを知っている人は多いでしょう。 トゥーリッキの落ち着いた声と話しぶりには安心感があり、ああ、これからトーベはやっと息ができるようになるんだな、と思えるラストシーンでした。

ところで、私は2014年にフィンランドのアテニウミ美術館で開催された大規模なトーベ・ヤンソン展に、2017年にはHAM(ヘルシンキ市立美術館)でもトーベヤンソン展に行っています。

2014年の大規模展についてはこちらのブログに

2017年はこちらで書いています。

2014年の大規模展ではトーベが子どもの頃に描いた絵も展示されていました。子どもの頃の絵が残っているなんてすごいなあと驚いたのを覚えています。うちの親なんて1枚も残していないんじゃないかなあ。

この時の展示の最後には映画で出てきた大きな壁画がありました。館内撮影NGでしたが、一緒に行った家人が美術館から出てくる私を撮影した写真に部分が写っています。

私がまるでメンチ切っているヤンキーのような表情ですが、怒っているわけでなく、撮られているの知らないんだから、まあこんなもんだわ。

余談ながらフクヤ的に「おお!?」と思った箇所が二つ。一つは芸術家の支援事業か給付金か、何かわからなかったのですが、対象者発表シーンでトーベは選ばれず、選ばれた一人がカイ・フランク。のちにアラビアで伝説の人となるデザイナーです。

そして、トーベと弟のラルスがムーミングッズに取り囲まれながらコミックを描くこの場面。

© 2020 Helsinki-filmi, all rights reserved

後ろの棚にアトリエファウニの人形と並んで写っているマグは、アラビアのムーミン食器第一号ではないかしら!ということは横にあるのは同シリーズのプレートかな。

表紙になっている

このムーミン食器のフォルムデザインは、カイ・フランク。映画の中でまさかの邂逅。これら超希少品たちは、アラビアの貸し出しかしら…。ちなみにカイ・フランクもトーベと同じスウェーデン語話者のフィンランド人です。

ところで、最後にトーベ自身の短い映像が流れます。ここ最高に気分いいですよ。

公開済みです。上映についての詳細は下記公式ページよりご確認ください。

映画『TOVE/トーベ』

2020年/103分/フィンランド・スウェーデン合作/原題:Tove/配給:クロックワークス

登場人物たちは酒を飲む、飲む、飲みまくる。煙草を吸う、吸う、吸いまくる。どちらも苦手なので観ているとつらくなってきた…。

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