トナカイが○○の間に移動する距離

東山魁夷の画文集『古き町にて―北欧紀行』を図書館で借りたときに、新入荷本のコーナーに『翻訳できない世界のことば』がありました。
きっと北欧の言葉があるなと、ページをめくると案の定いくつか掲載されていて、その中にフィンランド語の「poronkusema」を発見して思わず借りてきました。

この言葉を知ったのは、ある集まりで日本在住の北欧各国の人たちと食事をした時。こういう場では、方言程度にしか言葉の違いはなく、お互い母国語で話しても通じるスウェーデン、デンマーク、ノルウェーに対して、違う言語体系のフィンランド語は笑いの種に取り上げられがちです。
その時に強烈に印象に残ったのが、一人が発した
「フィンランド語って小学生みたいだよね。トナカイがオシッコをする距離とかさー」
の言葉。
「ポロンクセマ」とフィンランド人がニヤニヤしながらスマホを取り出して調べ「約7.5キロ」
『翻訳できない世界のことば』ではマイルドに「トナカイが休憩なしで、疲れず移動できる距離」と説明されていましたが、ウェブ辞書Wiktionary(ウィクショナリー)には

Compound of poron (“reindeer’s”) +‎ kusema (“peed by”); the distance a reindeer could travel without stopping to urinate.

「ポロン(トナカイ)とクセマ(おしっこする)の複合語。 トナカイが排尿のために止まることなく移動することができる距離」
としっかり書かれていました。フィンランドではトナカイがいかに密接に暮らしにつながっていたかが分かる興味深い単位で、忘れられない言葉です。一生使うことはなさそうですが。
この本には紹介されていなかったのですが、スウェーデン大使館さんがTweetされていた「Gökotta(ヨークオッタ)」も翻訳できないでしょう。


実は、この意味はスウェーデンのUpsala-Ekeby製アッシュトレイ「Gökotta」が入荷した時に調べていたので知っていました。

そのとき、日本語で言えば「花見」ね、と思ったものです。日本語の「花見」とは、単に花を見るという意味ではなく、春を告げる桜の花の木の下に集い飲んだり食べたりして桜の花を愛でる、という意味ですものね。
翻訳できない言葉は、往々にして、固有の自然や暮らしを色濃く反映していて、その言葉が生まれた背景まで想像が膨らんでいきます。
話は変わりますが、その集まりで言葉についての話が広がり、アイスランド人が「火山が噴火した時に海外メディアが山の名前を全然発音できていなくてみんなでテレビ観ながら笑ってた」と。
山の名前は「Eyjafjallajokull(エイヤフィヤトラヨークトル)」。下に音声を貼り付けましたので、聞いてみてください。

日本の報道ではちゃんと言えていたのかなあ。
写真に使ったオレンジを入れたボウルはこちら→Rorstrand ボウル (サーミとトナカイ)
フィンランドと同じくトナカイと密接な暮らしをしている、スウェーデンの製品です。
ミタ
他に取り上げられている北欧語は
Pålegg (ノルウェー語)
Mångata (スウェーデン語)
Fika (スウェーデン語)
Tíma (アイスランド語)
Resfeber (スウェーデン語)
Forelsket (ノルウェー語)
Tretår (スウェーデン語)
取り上げられている日本語は
木漏れ日
ボケっと
侘び寂び
積ん読
日本語については、かなり意外なセレクトでした。

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