9月21日にはプレス内覧会で、昨日の25日に日本のカーリン&カール・ラーション友の会代表の宮田さんのご案内でと、現在新宿の損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の『カール・ラーション展』へ2回足を運びました。カール・ラーション(1853~1919)はスウェーデンの国民的画家として知られています。
プレス内覧会では、カール・ラーション・ゴーデン館長のキア・ヨンソンさん、ティールスカ・ギャラリー館長のパトリック・ステウルンさん、中部大学教授の荒屋鋪透さん、更にカール・ラーションの曾孫のオスカル・ノルドストローム・スカンス(と読むのかな?Oskar Nordström Skans)さんの解説付きという贅沢さ。
オスカル・ノルドストローム・スカンスさんは、おばあさまから聞いた絵の裏話をされて、笑いを誘っていました。
荒屋鋪透さんの日本の影響を受けた構図や輪郭線を描く手法について。カールと日本画の関係は昨年の夏にカール・ラーションの家のツアーで聞いてはいたのですが、専門家の話では更に理解が深まり、大変に面白かったです。荒屋鋪さんのギャラリートークは9月29日と11月17日に一般向けに開催されます。タイミングが合えば是非とも参加して頂きたいです。
そして25日の再訪では、これも宮田さんの思い入れたっぷりの解説付きという贅沢さでした。宮田さんは特にカールの陰に隠れがちな妻のカーリンの手工芸の数々に感銘を受けていらっしゃるので(いわばカーリンファン)、カーリンについて大変に詳しく教えてくれました。今回の展覧会はカーリンの作品を多く展示しているのが初の試みだとか。
こちらはカーリンの刺繍したクッションです。様々な刺繍の手法を使った色彩豊かな作品は彼女の性格を表しているよう。
カーリンの織ったテキスタイルには日本やネイティブアメリカンを思わせるパターンが採用されていて、ひとりの人間が作ったと思えないような異なったスタイルが見られます。「面白い!」と思ったら作ってみたくなるような、進取の気性に富んだ鋭い感性の持ち主だったのでしょう。
ラーション夫妻はバロックやロココ時代のアンティーク椅子を集め、ビックリするような鮮やかな色に塗り替えて、カーリンが織った当時最新流行のアールヌーボースタイルの布で張り替えてリフォームしています。こういうクラシックなものを生かしつつ現代のデザインを組み合わせたミックススタイルは、今でも作られているモダンアートと同じです。このとんがった感覚が素晴らしい。
また、カーリンがデザインして刺繍した、第一次世界大戦の悲しみと終戦の喜びを炎と涙とハートのパターンで表したクッションには見とれました。何が素晴らしいって、家で使うクッションにそんなテーマを選びますか?これは全く絵画に選ぶようなテーマ。しかもデザインが抽象的で、50年先を行っている。
カーリンもまた美術学校で絵を学んでいましたが、当時の常識で結婚したら家庭に入り、絵筆を絶っています。けれども、カーリンはキャンバスを刺繍や織物に替えて絵を描き続けていたのでしょう。実はあんまりにも見とれて写真を撮っていない!実物(ただし複製)は是非会場でご覧ください。
カールに話を戻すと、彼は自身の家や家族をテーマに多くの絵を描き、その幸福感あふれる様子はスウェーデン人のひとつの理想の家庭像とされました。また、絵に描かれたインテリアは憧れのとなり、印刷された画集などは大変な人気となりました。
さしずめ現代なら人気インスタグラマー、最近の言葉で表すなら、インフルエンサーでしょうか。なにしろ、今では北欧インテリアの定番となっている白い壁もこの二人が発信したそう。当時は貧乏っぽいと思われていた白い壁をオシャレにステキに見せたのだとか。
実は途中で触れた通り、カール・ラーションの家を去年の夏に見学をしたのですが、ツアーでは家に焦点が当てられていて、あまり絵についての解説はありませんでした。今回改めて彼の絵をじっくりと眺め、その構図に大変に驚きました。
パトリック・ステウルンさんが解説をされている家族の食事風景の絵は、まるでスナップ写真のようなのです!
写真を見慣れている現代の私たちは、何気なく見過ごしてしまいそうなのですが、よく見ると画面の中に人が納まっていなかったり、視線があっち向いていると思えば、画面の外のにいるであろう父親を見ていたり、なんとなくバラバラな感じがカメラを出してパッと撮ったよという雰囲気。まるで自分もその場に立ち会っているような錯覚を覚えます。
けれども、絵として描かれているからには(しかも水彩!)子供たち一人ひとりのスケッチを重ねて最終的にこの構図に組み合わせているハズ。つまり、きちんと準備をして描いているにも関わらず、全くいま自分の目の前で展開されているような自然な情景にしか見えないということ。
うなりました。
そのことに気が付くと、どの絵も自然な情景を注意深く構成して作っていることに気が付きます。西洋絵画と日本画の違いのひとつは余白。日本画には「間(ま)」と呼ばれる余白があります。カールの構図に見られる余白は日本画の影響を感じますが、時々「え、ここに?」という場所に大きな余白があり、これがまたスナップ写真的に見えるんですよね。いやあ、これって現代に例えるなら、しつこいようですが、やっぱり人気インスタグラマー?
多くのテーマを日常に求めたためか、人々の人気があったにも関わらず、画家としての評価が低すぎるのではないかと思える、カール・ラーション。けれども現代の目線でみると、全く古さを感じさせず、むしろ時代がラーション夫妻に追いついた感がありました。どうぞ、足を運んで実際にご覧になって頂きたいです。
カール・ラーション スウェーデンの暮らしを芸術に変えた画家
会期:2018年9月22日(土)~12月24日(月・休)
月曜定休(ただし9月24日、10月1日・8日、12月24日は開館)
お客様感謝デー(無料観覧日):10月1日(月)
会場:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
開館時間:午前10時から午後6時まで(ただし10月3日(水)、10月26日(金)、12月18日(火)~23日(日)は午後7時まで) ※入館は閉館30分前まで
●荒屋鋪透氏のギャラリートーク【要事前購入】
9月29日(土)/11月17日(土)
鑑賞会 午後6時30分~8時(受付開始は午後6時15分、最終入館は午後7時30分まで)
鑑賞ツアー 午後6時30分~(約45分)
参加券 1,600円(観覧料含む)
詳しくは下記リンク先をご覧ください。
ホームページ:http://www.sjnk-museum.org/