温故知新

学生時代ミッドセンチュリーに興味を持って、暇を見つけて目黒通りのヴィンテージショップを覗いたりしていました。
まだその通りが「インテリアストリート」という名前で呼ばれる前の話。お店も数店しか有りませんでした。
あまり人気のない店内には、うっすらと日が差し込み、使い込んだ家具や食器をぼんやりと照らします。年代を経た家具や食器に囲まれると、時間がたつのも忘れてしまいます。
もちろん、学生の私に買えるようなものは無く、眺めているだけ。
そんな10代の頃、この写真にあるカメラを祖父から譲り受けました。
これは1950年頃に製造された、ドイツContax社のカメラ。レンズは当然Zeissです。

0908lillemor.jpg

もちろんピントも露出も、フィルムの巻上げすら全て手動。勘と経験が命のカメラです。
新し物好きの祖父のこと、戦後に買ったはいいものの、ほとんど使っていなかった様です。そのため、一人で本を読んだりカメラ屋のおじいさんに聞きに行ったりして、何とか写真を撮ってはチマチマと現像していました。
そのカメラの隣にあるのはGefle Lillemorのコーヒーカップです。
銅版画のようなタッチは、古い洋書の装飾を思わせます。規則的なパターンは有機的でありながら、ほとんど動きを感じません。
静かに静かに流れる時間を表現したようなこのコーヒーカップ。
眺めているうちに、思い出したのは当時のヴィンテージショップの空気です。
記憶の中に残る、ほの暗い店内に小さな声で話す人たち。静かで確かな時間がそこにありました。
さて前述のカメラ、社会人になってからは、すっかりしまい込んでしまって取り出すこともありませんでした。
それでも手放す気にはなれません。それは、やっぱり思い出だけでなく、デザインに惹かれているから。
良いデザインは長く生きる。このLillemorコーヒーカップにも言える事なのではないでしょうか。
ミタ

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