こんにちは。
先日マリアンヌ・ウエストマンの代表作の一つ、Picknickシリーズから大きなキャセロールが入荷しました。一番奥にある赤い蓋のものがそうです。
キャセロール、という名前が適当かどうか今ひとつ自信は無いのですが、発売当時のロールストランドの資料によると”Gryta med lock”とあり、これを直訳すると”蓋付きキャセロール”。ただ、この縦長の形では、オーブンに入れたところで効率が良くは思えませんし、ちょっと私には火にかける勇気がありません。
去年の雑誌「Elle Deco」ではワインクーラーとして使われていましたが、何かキャセロール以外の使い方の方が向いている気がします。
ELLE DECO (エル・デコ) 2009年 04月号
このキャセロールを含むPicknickシリーズが出されたのは1956年。以前も書きましたが、その斬新な発想に当初ロールストランドの経営陣は難色を示したものの、発売されると大変な人気を呼び、結局1969年までのロングセラーになったばかりか、よく似た製品も後に続いて作られました。
1956年と聞いてもピンとこないかも知れないのですが、昭和31年というと何となくイメージできるのではないでしょうか。5年ほど前にヒットした映画「ALWAYS 三丁目の夕日」が昭和33年が舞台ですから、だいたいまあ、都心ではあんな感じです(当時は今では考えられないくらいの地方との格差があったと本で読みましたが)。
日本では「もはや戦後ではない」が流行語となり、経済がどんどん発展していったとき。そのころスウェーデンでは日本を上回る未曾有の経済発展を遂げました。というのは、中立国として第2次世界大戦に参戦しなかったため、産業設備が破壊されず、ヨーロッパ中からの復興特需が集まったからです。
ちなみに、この経済発展で働き手が足りなくなり、女性の社会進出を国が奨励したのが、現在も続く男女平等思想と福祉国家の始まり。乱暴にまとめると、女性を家から出すために、それまで主婦の仕事であった子どもと高齢者の世話を国が引き受けたという訳です。
そんな沸き立った時代の気分に、ウエストマンのピクニックはピッタリ合ったのでしょうね。それまで、クラシックな植物柄や、シンプルな無地の食器を見慣れていた人々にこの明るい柄がどれほどの喜びをもたらしたか、想像に難くないです。
また、共働きの主婦にとっては、キッチンから食卓にそのまま運んでも絵になる食器は大歓迎だったでしょうし、それまでの食器60ピース売りから必要なものだけを選べる、ばら売りのピクニックシリーズは、急激な発展で地方から都心の小さな家に移住した若いカップルにとっては、スペースの節約に一役買ったのでしょう。
その時代のウキウキ感が伝わってくるような楽しいピクニックシリーズ。50年前の作品なのですが、最近テキスタイルメーカーのアルメダールスがピクニックをモチーフに商品を作ったように、今もそのデザインは色あせる気配はありません。
一部がスウェーデンのアーランダ空港で販売されていました。バッグ125クローネ、鍋敷き150クローネ、カッティングボード195クローネ。
すぐに日本でも発売されるだろうと思っていたのですが、バッグは出ていないのかな?買付のお土産用にいくつか持って帰ってくれば良かったかも。
さて、ビンテージの楽しみは時代の空気を感じるところにも有ります。もっとも私たちは歴史家でも研究者でもないのですから、そのアイテムが心に響かなければ楽しくも何ともありませんよね。
ピクニックシリーズは当時の人々の将来への希望を感じると共に、今年発売されたといわれても信じてしまいそうな時代性を超えたデザインに魅力がある、稀有なシリーズです。右端にあるソースポットは既にサイトに出ています。
→Rorstrand Picknick フタ付きソースポット
ニンジン柄のキャセロールとカブ柄のプレートは、えーと、そのうちサイトに出します。
ミタ
そういえば、スウェーデン人気ブロガーのコレクターさんがEdenについて「ウエストマンとは近所なんだけど、彼女が”私はリンゴを青く塗るような悪趣味じゃないわよ”といっていたよ」と書いていました。RichterによるEdenの青紫と黄緑の配色はセンスがいいと思っているのですが、ウエストマンにしてみれば自作とされていることに対しての憤りがこういった表現になったのかもしれませんね。