アイスランド映画『ハートストーン』死と再生

世界各国で数々の賞を受賞したアイスランド映画『ハートストーン』が、7月15日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国で順次ロードショーされます。先月、試写会で一足早く観てきました。
(C)SF Studios Production & Join Motion Pictures Photo Roxana Reiss

東アイスランドの美しく雄大な自然が広がる小さな漁村、ソールとクリスティアンは幼なじみでいつも一緒の大親友。ソールは美しい母、そして自由奔放なラケルと芸術家肌のハフディス、対照的な二人の姉妹に囲まれて暮らしている。
思春期にさしかかり、ソールは大人びた美少女ベータのことが気になりはじめる。クリスティアンはそんなソールの気持ちを知り二人が上手くいくよう後押しする。そしてクリスティアン自身もベータの女友だちハンスからの好意を受けとめ、4人は行動を共にするようになる。自然とソールとベータの距離は縮まり二人は心を通わせ合う。ただそこには二人を見守りつつ複雑な表情を浮かべるクリスティアンがいた…。

『ハート・ストーン』はアイスランドの寒村を舞台に、夏休みの間に様々な経験を経て、少年が大人へと近づいていく姿を描いています。物語は埠頭で半裸で寝ころび、退屈そうに短い夏の美しい光を浴びている少年たちの姿から始まります。彼らを一変させるのは、突然現れた魚の群れ。慣れた手つきで何匹も釣り上げ、興奮しながら釣り上げた魚を突堤に打ち付け息の根を止める少年たち。
冒頭に描かれた、突然の死と破壊のイメージはこの後も物語の中で澱のように漂っていきます。
(C)SF Studios Production & Join Motion Pictures Photo Roxana Reiss
幼いころからいつも一緒で仲のいいソールとクリスティアン。ソール(Thor)の名は北欧神話の主要な神の一人、勇ましい戦神であり雷神のトールにちなんでいるのでしょう。クリスティアン(Kristján)の名はクリスチャン、いわゆるキリスト教徒を意味するのですが、欧州では広く使われているごく一般的な男性名です。
同い年の2人ですが、既に成熟しているクリスティアンに比べ、ソールはまだ幼く、それが彼の密かな悩みの種となっています。一方、クリスティアンも人には言えない深い苦しみを抱えています。
ソールより体は成長はしていてもどこか線の細いクリスティアンを活発なソールはいつもリードし、クリスティアンは親友ソールの恋をかなえてあげたいとあれこれ画策します。やがて、ソールへのクリスティアンの好意は友情を超えていること、それがクリスティアンの葛藤であることが観客に明らかになっていきます。
クリスティアンが性的マイノリティであることを隠しても、小さく閉鎖されたコミュニティの中では誰もが知ることとなっていて、彼に対する態度にどことなく現れています。更にゲイ嫌いの父親に暴力を受け、追い詰められていくクリスティアン。
クリスティアンの気持ちに気が付き、一旦は態度がぎこちなくなったソールですが、ある事件をきっかけにクリスティアンを庇って(戦神トールの名にふさわしく)戦い、その後二人は再会します。
二人のこれからはどうなっていくのか。キリスト教徒が自らを神に捧げるように、ソールに献身をしたクリスティアン。彼のこの先は、キリストが死から復活したことを思いださせるエピソード、物語の初めに無残に唾を吐きつけられ踏みつけられたある物が再び登場し蘇る形で暗示されます。
辛かったり、みじめだったり、叩きのめされ、壊されても、また始められる…。少年たちが北欧の短いひと夏に経験する、生と死、そして再生を、厳しくも美しいアイスランドの自然と共に描いた物語です。


映画『ハート・ストーン』では毎週プレゼントが当たるTwitterキャンペーンを7月28日まで開催しています。詳しくは下記リンク先からどうぞ。
http://www.magichour.co.jp/heartstone/campaign/



★公開情報★
監督・脚本:グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン
出演:バルドル・エイナルソン、ブラーイル・ヒンリクソン、ディルヤゥ・ワルスドッティル、カトラ・ニャルスドッティル、ニーナ・ドッグ・フィリップスドッティル
2016/アイスランド,デンマーク/HD/アイスランド語/カラー/129分/シネマスコープ/5.1ch
原題:Hjartasteinn/英題:Heartstone
日本語字幕:岩辺いずみ
後援:アイスランド大使館
配給・宣伝:マジックアワー
(C)2016 SF STUDIOS PRODUCTION APS-JOIN MOTION PICTURES EHF 2016
公式サイト:www.magichour.co.jp/heartstone/
★受賞歴★
第73回ベネチア国際映画祭 クィア獅子賞(最優秀LGBT映画)受賞
第52回シカゴ国際映画祭 ゴールドQヒューゴ賞(最優秀LGBT映画)受賞
第32回ワルシャワ国際映画祭 最優秀監督賞、男優賞スペシャルメンション、エキュメニカル賞受賞
第46回キエフ国際映画祭 観客賞、男優賞スペシャルメンション、国際映画批評家連盟賞受賞
第58回リューベック・ノルディック映画祭 最優秀作品賞受賞
第8回CPH:PIX 観客賞受賞
第13回セビリア・ヨーロッパ映画祭 平和へのオコナ賞(最優秀LGBT映画)受賞
第57回テッサロニキ国際映画祭 審査員特別賞受賞
第16回マラケシュ国際映画祭 最優秀主演男優賞受賞
第27回トロムソ国際映画祭 ドン・キホーテ賞 受賞
第40回ヨーテボリ国際映画祭 最優秀プロデューサー賞 受賞
第29回アンジェ映画祭 最優秀作品賞、観客賞、ヤング審査員賞 受賞
第34回アノネー国際映画祭 ヤング審査員賞、特別審査員賞 受賞
第45回ベオグラード国際映画祭 審査員賞、最優秀デビュー映画賞 受賞
第17回プエルトバジャルタ国際映画祭 PREMIO MAGUEYスペシャルメンション
第34回BUFF国際映画祭 スウェーデンの教会賞 受賞
シネマ・スカンジナビア賞2016 年間最優秀北欧映画、最高人気監督、最高人気アイスランド映画 受賞
スコープ100配給映画賞 受賞(スウェーデン、ポルトガル)
第19回EDDA賞(アイスランドアカデミー賞)9部門受賞
作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞、編集賞、美術賞、衣装賞、主演男優賞、助演女優賞
第24回プラハ国際映画祭 最優秀作品賞 受賞
第11回ダラス国際映画祭 最優秀監督賞 受賞
第33回WICKED QUEERボストンLGBT映画祭 最優秀劇映画審査員賞 受賞
第14回クロッシング ヨーロッパ映画祭 観客賞受賞

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