クリスマスキャロルの思い出

今日の12月13日はキリスト教の聖ルシアの日です。イタリアの聖人ルシアは信仰心のため目を異教徒に潰されたにも関わらず見ることが出来たという逸話を持ち、暗闇から光を灯す象徴として長く暗い冬を持つ北欧諸国であがめられています。
ルシアの日には頭にキャンドルの冠をかぶった少女を先頭に、子供たちがキャンドルを手にサンタルチア(聖ルシア)の歌を歌いながら行進するのが北欧各国の習慣。ちなみに発祥はスウェーデンだそうです。このグスタフスベリのクリスマスプレートで踊っている女性は、聖ルシアの冠をかぶっています。
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さて、北欧のルシア祭については何度も過去に書きましたので、今日は私の思い出話。といっても、ルシアにも、北欧にも関係ありません。キャンドルを持った行進で思い出しました。
私の通っていた幼稚園はカトリック系だったので、クリスマスの時期になると手にキャンドルを持って地元の消防署などを周り、クリスマスキャロルを歌いました。また隣家にはキリスト教系女子大の教授が住んでいて、クリスマスが近くなると女子大生たちが玄関先にキャンドルを手に集まり歌うクリスマスキャロルを聞くのが毎年の楽しみでもありました。
ですので、家人の留学で2003年から1年ほど住んでいたアイルランドの友人の家でお茶を飲みながら彼女が「子供たちがクリスマスキャロルを歌いにうちに来た時ね」と話し始めた時、ああ、とその様子が頭に浮かびました。
その友人はご主人の転職で新天地であるアイルランドの地方都市に家を新築し、引っ越すつもりで仕事を辞め、それまで住んでいた家を引き払ったのですが、なんと新しい家が引き渡しの日になっても完成してない(実際出来上がったのは引き渡し予定日から1年ほど後)という事態になり、当時は仕方なく首都ダブリンのご主人の実家に居候していました。
アイルランドは1980年代まで欧州最貧国だったので、年配の方の中には小学校も出ていないための文盲も少なくなく、そんな人のために政府が無料、あるいは格安で手芸や料理を通して読み書きを覚えるアダルトスクールを地域ごとに作っていました。当時は外国人である私もそのスクールを利用出来たので、週に4日程通い、絵をかいたり料理をしたり手芸をしながら英語を学んでいました。
彼女の居候していた家はそのスクールの近くにあり、クラスとクラスの間の空いた時間によく約束無しでふらりと時間つぶしに訪問していました。お義母さんは痩せた鋭い顔をした人で、いつも家の中をピカピカに磨き、孫のちっちゃなパンツにまでアイロンをかけ、挨拶に厳しく、大きな声でキビキビと話す人。
そっけなくて、最初は少し怖かったけれど、ある日友人から「この前はスクール休みだったのね。お義母さんが”水曜日はヨウコが来るかもしれないから”といつもより念入りに掃除していたわよ」と聞かされ、実は生まれた土地を離れ知人の少ない嫁のために私の訪問を喜んでいたりと、慣れない場所で暮らす彼女の事を何かと気にかけているのが見えてきました。
厳格なカトリック国であるアイルランドは宗教で禁じられている、離婚、中絶が法でも禁じられていました。離婚は1996年に条件付きで認められ、中絶も2013年に一部合法となったそうですが、私が滞在中は望まぬ妊娠をした人向けにテレビCMや教会の掲示板を使って「困ったことがあればこちらに」と相談窓口が告知されていたり、強姦にあった14歳の子の中絶を(係争中だったため)秘密裏に国外脱出させて行った話を聞いたこともあります。
その頃60代だった友人のお義母さんは、独身時代は小学校教師をしていたのですが、当時の法で結婚した女性は仕事を辞めなければいけなく、教職にやりがいを持っていながら、泣く泣く退職したのだと言っていました。本当にそんな法律があったのか、それとも単なる慣習なのか分からないのですが、近年まで離婚や中絶が禁じられていた保守的な国ですから、今より半世紀近くも前ならさもありなんと思ったものです。
さて、話は最初に戻り、12月のある日、彼女の家に毎年恒例の子供たちのクリスマスキャロル隊がやってきました。ちなみに子供たちは歌を歌うだけではなく、歌のお礼にいくらかのお金を受け取り、福祉団体に寄付します。
愛らしい子供たちの歌を最後まで玄関先で聞き終わったお義母さんが放った言葉は
「この歌は2番まであるハズよ。2番も歌いなさい!
それから、そこの子!あんた歌っていなかったでしょ!?
お金が欲しいならちゃんと働くんだよ!

「そう言って、最初から全員に歌い直させたのよ!もう恥ずかしくって!」
友人はやや困惑気味に話すのですが、あのお義母さんならやりかねないと納得したし、何より全くの正論だなと感銘も受けました。労働に対するシンプルで全うな考え。子供だって分かっていないと。
今でも様々な場面で”お金が欲しいならちゃんと働きなさい”の言葉が頭に浮かび、しばしば反復しています。特にクリスマスキャロルが聞こえてくるこの時期は思い出し、そうだわ、来年もちゃんと働かなくっちゃ、と思えるのです。
ミタ
今年(2015年)アイルランドで同性婚が認められたそうです。同性婚もまたキリスト教で禁じられているため、アイルランドも変わったなあと感慨深かったです。

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