8月8日からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショーのスウェーデン映画「さよなら、人類」。前回は公開前イベントに行った話をご紹介しましたが、今回は映画について。
「さよなら、人類」はスウェーデンの映画監督、ロイ・アンダーソンによる3部作”リビング・トリロジー”の最終話として制作されました。シリーズ1作目の「散歩する惑星」が2000年、2作目の「愛おしき隣人」が2007年、そしてこの「さよなら、人類」が2014年ですので、足掛け14年に渡っています。国際的に高い評価を受け、第71階ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)を受賞しました。
全39話の短編からなる物語は、全て固定カメラで撮られたワンカット。数秒ごとにカットの変わるハリウッド映画とは対照的な手法はいつしか自分もその場にいて、目撃しているような錯覚に陥ります。描かれている物語は、どれも特に盛り上がりやオチがあるわけでなく、淡々と進み、そして突然終わり、まるで現実世界で知らない誰かの出来事に通りすがったような感覚に襲われるでしょう。
リアルな出来事を描いているかと思えば、現代のカフェに18世紀のスウェーデン国王の一隊が現れるなど、幻想と現実が入り乱れるさまは、まるで誰かの夢を覗いているようでもあります。
物語の中心となる登場人物は、面白グッズのセールスマン、サムとヨナタン。冴えないグッズをセールスしてまわる冴えない二人は、どこからどう見ても脇役感が漂います。
その二人とともに描かれるのも、映画のメインストーリーからカットされたような、ささやかなエピソードやシーンがほとんど。そう、まるでエンドロールの小ネタ集。けれども、バラバラの絵や写真をつなぎ合わせ一つの作品を作り上げるコラージュアートのように、一見関係の無い小さなエピソードが積み上げられると、じわじわと物語が姿を表してきます。
誰もが淡々と同じ日常をやり過ごしていて、毎日をエキサイティングに暮らしている人なんかいない。「また水曜日だ」と繰り返す日々にややうんざりしている。それでも、ある時思いがけず長年の友達との仲たがいをしたり、18世紀の国王に口説かれたりするかも知れない。善人が恐ろしいことをしてしまったり、恋に落ちるかもしれない。
人生に起こるいつもの出来事の中の、突然降りかかった事件をやり過ごしながら、「元気そうで何より」と変わらぬ日常をいたわり、愛おしむ。そんな普通の、主役になれない人たちに温かい目を向けたエピソードの数々。鍵穴からこっそり隣人をのぞいているような39の物語から、観終ったあと何度も頭に浮かび咀嚼を繰り返してしまうシーンが一つは残るはず。
前述したようにカットが次々と変わり短時間に大量の情報を与えられるハリウッド映画は考える間も与えてくれないけれど、「さよなら、人類」からはいつの間にか何かをじっと考えている自分に気が付くでしょう。日常を少し離れた距離から見つめ直してみたい、そんな期待に応えてくれる珠玉の小ネタ集でした。
さよなら、人類
A Pigeon Sat on a Branch Reflecting on Existence
監督・脚本:ロイ・アンダーソン(『散歩する惑星』『愛おしき隣人』)
出演:ホルガー・アンダーソン、ニルス・ウェストブロム
2014年/スウェーデン=ノルウェー=フランス=ドイツ/カラー/100分
(c)Roy Andersson Filmproduktion AB
後援:スウェーデン大使館 提供:ビターズ・エンド、スタイルジャム、サードストリート 配給:ビターズ・エンド
www.bitters.co.jp/jinrui/
ミタ