戦争の世紀に輝いた美しいイラスト

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昨日、来月エスカのワークショップをしてくださる、つれびさんがフクヤに遊びに来られました。
【刺繍小箱エスカ】デンマークの伝統手工芸
こちらは既に満席ですので、現在キャンセル待ちを承っています。
私も以前刺繍を習ったことがあり、手工芸全般に興味があるので、楽しいお話を沢山伺って、あっという間に何時間も経ってしまいました。引き止めてしまって申し訳なかったです。

さて、私がつれびさんの作品を知ったきっかけは、トップの写真のイラストを描いたデンマークのKamma Svenssonについて調べていたときでした。1920年代から1980年代まで活躍したイラストレーター、Kammaのクロスステッチ図案カレンダー本(1980年)をつれびさんがお持ちだったのです。つれびさんはデンマークでそのカレンダーを入手したとか。

Kamma Svenssonについては、デンマーク語の資料しか見つからず、どうも所々しか分らなかったのですが、その頼りない私の理解度でもとても興味深い女性でした。何せ、1900年代初頭に生まれたデンマーク女性としては大変珍しいことに、2度結婚し、生涯旧姓を名乗っていたというのです。
Kamma Svenssonはデンマークの南の地方で1908年に生まれました。編集者であり、後に政治家になった父親は第一次世界大戦中に反体制の雑誌に関わりドイツ軍によって投獄されました。その間、子どもであったKammaは母ときょうだいだけで暮らしていたそうです。

子供の頃から家庭内でジャーナリズムについて論議されていたのを聞いて育ったKammaは漫画家を志すようになります。何故漫画家?と思われるかもしれません。推測ですが、当時はコミックなんてありませんから、漫画といえば新聞の風刺画(ポンチ画)を指していたのではないでしょうか。実際、日本も明治、大正時代はそうでしたよね(余談ですが、ムーミンシリーズのトーベ・ヤンソンも戦時中は政治風刺雑誌の挿絵を描いていました)。

夢をかなえ、1920年代から新聞に漫画を提供し、1940年代には自分の3人の子どもをモデルに子どものイラストを手がけます。1950年代には専属でいくつもの新聞、雑誌と契約、やがてアーティストとしての活躍の場は紙面以外にも広がっていきます。

絵本の挿絵もあれば、1971年と1972年にはロイヤル・コペンハーゲンの母の日プレートを担当。特に有名なのは1978年からのチボリ公園のポスター、1981年のデンマーク郵便のクリスマス切手です。また、同時期に刺繍キットメーカーFremme(フレメ)から刺繍の図案も出していて、それが、つれびさんがお持ちの一冊なのですね。
若いときから活躍している彼女ですが、なんと言っても70歳を前にしてからの活動が目をみはります。

また、イラストレーターとしてだけでなく、ジャーナリスト家庭に育った彼女は社会への関心も高かったのか、1940年代には家庭と仕事における女性の役割についてついての議論に記事を提供したり、第二次世界大戦直後にはデンマーク赤十字の記者としてドイツに赴いたりもしています。その経験は彼女を第3次世界大戦への不安に導き、また韓国とベトナムの戦争からも、非常に影響を受けたといいます。

1987年、彼女は最後の仕事である絵本「Da Prosper Alpanus og Rosabelle Verde tryllede om kap」を完成させます。
そして翌年、不治の病に罹っていたKammaは遺書をしたため、家族や友人としっかりとお別れを済ませ亡くなったそうです。

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20世紀は戦争の世紀、とも言われます。20世紀初頭に生まれ、終わりに亡くなったKammaは、物心付いたときから戦争に関わり、正にその戦争の時代を生きました。その不安や心配に心砕いたにも関わらず、彼女の描く世界は色鮮やかで美しく、暗い要素は見当たりません。それどころか、その美しさは増すばかりでした。
そして、人物たちは正面向きでも横向きでも、皆まっすぐな視線を送っています。どんなに不安に襲われても、彼女は目をそらさずに、最期の時までこのようにしっかりと前を向いて生きていたのかも知れませんね。

現在在庫のあるKamma Svenssonの作品
Ira ビンテージ菓子缶 (少女と犬)(緑)
Royal Copenhagen 母の日 プレート 1971年
Royal Copenhagen 母の日 プレート 1972年
ミタ

フレメは当時デンマークの様々なイラストレーターにデザインを依頼していたようです。これはデンマークの国民的イラストレーターBjørn Wiinbladがフレメの為にデザインした、鳥の図案の完成作品です。デンマークで自宅用に入手しました。

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戦争の世紀に輝いた美しいイラスト」への4件のフィードバック

  1. おお、彼女はあの、ピエロ風の美女のNymolleの絵皿の人ですねっ!彼女はまだ実家です^^。
    つれびさんのページ、ちりめん細工の教室をやっている母に見せたところ、絶賛!そして教えてもらう先生のセンスは大事だと言っていました。ただ、「刺繍はむずかしいよー。出来るの?」と娘の無謀さに呆れてましたけどね。
    エスカ教室楽しみです!!

  2. >>andymomさま
    そうなんですよ!あの絵皿の人です。随分と前からKammaさんについてご紹介したいと思っていたのですが、なかなか資料が揃わなくて・・・。まだ不十分ですが、つれびさんとのご縁をきっかけに書いてみることにしました。
    エスカの教室でお会いできるのを楽しみにしていますね!

  3. 先日はありがとうございました。
    すっかり長居をしてしまって申し訳なかったのですけれど、とても楽しかったです。
    Kamma Svenssonの絵の強さと優しさはこういう生き方から来ているんですね。フクヤさんに教えていただいて、もっと奥深く作品を感じることができそうです。

  4. >>つれびさま
    こんにちは!先日は雨の中ありがとうございました。
    当時の女性たちは強いですね。むしろ強くなければ生きていけない時代だったのかもしれませんが。
    それでは、当日を楽しみにしていますね!

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